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東京電力に見る事業継続計画

1.東京電力に見る事業継続計画

2007年7月16日午前10時13分、新潟県および長野県の市町村を最大震度6強の大きな地震が襲いました。新潟県中越沖地震です。

この地震でもっともマスメディアを騒がせたのは、東京電力柏崎刈羽原子力発電所で発生した火災ではないでしょうか?この火災を始め、放射性物質を含む水の漏洩や、原子炉建屋天井クレーンの破損などにより柏崎刈羽原子力発電所では現在でも7つすべての原子炉が停止した状態となっています。

この地震の発生が夏期であったこともあり、東京電力は予想需用電力量を十分に満たすだけの発電量を確保できなくなる可能性に見舞われました。(ちなみに今年の夏の最大電力は8月22日15時に発生した6,147万kWですが、柏崎刈羽原子力発電所停止後の東京電力単独での供給電力は6,160万kWでした(注1))

こで東京電力は、随時調整契約に基づく需要抑制や、他電力からの緊急応援融通、塩原発電所の緊急・暫定運転により需要の抑制および供給量の補充を行いました。塩原の水力発電所の緊急運転が大きく取り上げられましたので、記憶している方も多いのではないでしょうか?

この時東京電力が行った需要の抑制や供給量の補充は「事業継続計画」の実行であることが伺えます。

事業継続計画とは、英国規格協会により「潜在的損失によるインパクトの認識を行い実行可能な継続戦略の策定と実施、事故発生時の事業継続を確実にする継続計画」と定義されています。平たく言えば、「事業を阻害する要因が発生した場合に実行する代替計画」となります。

2.事業への影響を見極める

新潟県中越沖地震における東京電力の対応の場合、東京電力は新潟県での大地震が事業を阻害する要因のひとつであると認識し、その地震の発生によって柏崎刈羽原子力発電所が利用不可能になること(リスク)を想定していたことが想像できます。このリスクに対応するために、予め塩原発電所の緊急・暫定運転を含む「代替計画」が策定されていたのです。

しかし、この「代替計画」は非常に特殊なものであると言うことができます。なぜならば東京電力が「代替手段」として用意していた設備(塩原発電所)は、過去東京電力が利用しておりかつ現在も保有している設備であり、一般的な企業でこのような設備を用意することはとても困難であるからです。

では、一般的な企業が塩原発電所のような「代替手段」を用意するためにはどのようにすればよいのでしょうか?

適切な「代替手段」を用意するためには、リスクが事業に与える影響を見極める必要があります。この作業を「事業影響度分析(BIA:Business Impact Analysis)」といいます。

3.BIAの実行は経営陣の視点で

BIAは事業継続計画の策定においてもっとも重要な手順であると言っても過言ではありません。BIAでは、リスクが組織、重要な業務プロセス、及びその業務プロセスを支援するITシステムにどのような影響を与えるのか?を理解する必要があります。そのため、BIAを成功裏に実施するためには、組織の経営陣の強力な支援と業務の担当者及びIT担当者の全面的な関与が必要となります。
以下にBIAの実施手順および考慮すべきポイントを紹介します。

(1)情報収集方法の決定

情報収集の方法には、大きく3つの方法があります。

  • 1.アンケートによる収集
    詳細なアンケートを作成し、ITシステム及び業務の主要なメンバーに配布します。
  • 2.インタビューによる収集
    ITシステム及び業務の主要なメンバーに対してインタビューを実施します。
  • 3.会議による収集
    ITシステムおよび業務の主要なメンバーを招集し会議を開催します。

(2)情報収集・分析

アンケートやインタビュー・会議で収集した情報を分析し、クリティカルなビジネス機能(注2)を特定します。

(3)最大許容停止時間(MTD)の決定

(2)で特定したクリティカルなビジネス機能が許容できる停止時間(MTD :Maximum Tolerable Downtime)を特定します。これによりITシステムやサービスの復旧目標時間と復旧順序を確定します。

(4)経営陣の承認

(3)で決定したMTDが各部門、IT部門に通知され、最終的に経営者が承認します。これは、BIAが経営陣の視点で行われることを意味しています。

4.復旧戦略

クリティカルなビジネス機能が特定され、それぞれの復旧目標時間が明確になると、いよいよ復旧戦略を策定することになります。

事業復旧戦略

クリティカルなビジネス機能を期限内に復旧するために必要な資源を特定します。これらの資源には、オフィススペース・ITシステム・必要な要員などが含まれます。

施設及び物資復旧戦略

「代替施設」での復旧手順を特定します。これらには、必要なスペース・電気ガス水道などのインフラ・業務用の備品・「代替施設」に必要なセキュリティ機能などを特定し、構築する手順が含まれます。

人員復旧戦略

従業員に対する連絡手段・移動手段・宿泊施設の手配などの手順と、ITシステムが復旧するまでの間に行う手作業のプロセスを特定します。

システム復旧戦略

ITシステムの復旧手段を定義します。利用しているITシステムが損害を受け利用できなくなることを想定し、代替拠点の準備・代替拠点への移行計画などを策定します。

データ復旧戦略

新たな設備にバックアップデータを復旧させる手順を定義します。また、バックアップを行うデータの内容や頻度、データの保存場所なども特定します。

5.おわりに

以上で述べたように、事業継続計画は事業を阻害する要因が発生する前に、組織的に策定する必要があります。

「代替施設」についてはスペースの確保だけでなく、電気などのインフラや情報システムなど様々な設備を準備する必要があるため、新たな設備を準備することが現実的ではない場合もあるかと思います。

冒頭に紹介した東京電力の事例では、他電力からの緊急応援融通という形で電力の補充を行っていました。いざという時のために、事業所間や業界内で相互扶助の体制を構築することも有力な対策のひとつとなります。

(注1)参考URL:http://www.tepco.co.jp/cc/press/07091401-j.html

(注2)クリティカルなビジネス機能:災害発生時に必要最小限の業務を実行する上で、欠くことのできない機能。例えばメーカーの場合、製造や出荷などはクリティカルと定義される可能性が高くなりますが、研究開発やマーケティングなどはクリティカルと定義されない可能性があります。

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