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2008年12月号 電子記録債権法の概要と今後
1.売掛債権も電子化される!
「電子記録債権法」という法律を聞いたことがありますか?昨年6月に国会で成立し、今年12月までに施行される予定の法律です。この法律の施行に関する一連の動きは、企業の決済手段や資金調達手段を大きく変える可能性があり、特に経営者や財務・経理担当者はその動向に注意する必要があると思われます。
皆さんもご存知のとおり、平成21年1月から「株式電子化」が実施されます。これは「社債株式等振替法」という法律に基づいて上場会社の株式等に係る株券を全て廃止し、株券の存在を前提として行われてきた株主権の管理を、証券保管振替機構及び証券会社等の金融機関に開設された口座において電子的に行うものです。
この「権利を記録する媒体を紙媒体から電子媒体へ移行させる」という意味で、「電子記録債権法」は「株式電子化」と類似した動きであると言えるでしょう。一方で「株式電子化」は「株券」を対象とするのに対して、「電子記録債権法」は企業の「商業手形」や「売掛金」、「貸付債権」などを対象としている点、また個人ではなく企業のみがその対象者となる点などが大きく異なります。また「株式電子化」は平成21年1月に一斉に実施されることが決まっているのに対して、「電子記録債権法」の施行に際して必要となる電子債権記録機関(以下、「記録機関」)の設立及び情報システムの整備等については検討中の段階にあります。
2.「電子記録債権」とは何か?
従来は「商業手形(以下、「手形」)」などのように紙面に権利が記録されているのに対して、電子データに権利が記録された債権を「電子記録債権」と呼びます。さらに「電子記録債権」には金額が確定した全ての金銭債権が含まれるので、「手形」だけでなく「売掛金(指名債権)」や「貸付債権」も電子化して「電子記録債権」とすることが可能になります。つまり、企業が保有する様々な債権を電子記録として管理することができるようになります。
では、誰がその電子記録債権を管理するのでしょうか?ちなみに「株式電子化」では、証券保管振替機構及び証券会社等の金融機関に開設された口座で管理されます。「電子記録債権」については「記録機関」が管理することが予定されています。当然のことながら「記録機関」は電子債権の管理者として高い信頼性が要求されるため、主務大臣からの指定を受けるとともに、業務遂行状況に関して継続的な検査・監督を受けることが定められています。この「記録機関」は国が設立するのではなく、民間から複数の「記録機関」が設立されることが想定されています。今のところ設立が決まっている「記録機関」はありませんが、全国銀行協会や大手金融機関、大手企業などを中心に検討が進められています。
3.制度の目的と経緯
「電子記録債権法」が制定された目的は、企業の決済手段の円滑化と中小企業の資金調達の安定化の2点であるといえます。
売上債権のうち「手形」に関しては、これまでも金融機関で割り引くことによって資金化し、資金調達に活用されてきました。しかし、現物の授受を伴うため紛失・盗難リスク、券面の作成・保管・運搬コスト等の問題点がありました。
また一方で、企業の資金調達の手法として「売掛金」を担保として活用する動きが広まってきました。特に、不動産等の資産も持たない中小企業が円滑に資金を調達するためには、資産として眠っている「売掛金」を担保として運転資金を調達することは非常に重要な意味を持っています。
しかし、現在行われている債権譲渡の方法では債権の存在・内容を確認するためのコストがかかる上、二重譲渡を避けるために対抗要件を具備しなければいけないなどの制約条件も多く存在します。さらに手続が煩雑であることも影響して、幅広く活用されるには至っていません。
またそのような状況に加えて、最近の情報通信技術の発達、電子データ上での商取引や金融取引の普及という背景があり、売上債権を電子化することを通じてこれらの課題を解決しようとする動きが「電子記録債権法」の制定の要因となっています。
4.ポイント(1)~決済手段として~
前述のとおり、従来の「手形」は手形交換所を通じて決済され、「売掛金」は相対で決済されていたのに対して、「電子記録債権」は「記録機関」を通じて電子的に決済されることになります。ただし、全ての債権が一斉に「電子記録債権」に置き換わり、「記録機関」を通じた決済に全面的に移行するのではなく、従来の「手形」や「売掛金」も存続するため、新旧の決済制度が並存することになると考えられます。
5.ポイント(2)~資金調達手段として~
商品やサービスの対価を「電子記録債権」として受け取るようになれば、「記録機関」を通じて債権を受け取ると同時に資金化することができるようになります。そのため、売上債権を資金化するまでの期間を大幅に短縮することが可能になり、重要な資金調達の手段となります。
また、「電子記録債権」は小口分割化して一部のみを譲渡するができるため、手許資金の状況に応じた柔軟な資金調達が可能になります。また、従来の「手形」の割引などと比較して事務手続が簡略化されることも大きなメリットです。
6.今後の展開
「電子記録債権法」は金銭債権を電子化して新しい取引形態を作るための基礎となる法律であり、制度の詳細や実務上の運用手続の整備は、今まさに検討されている段階にあります。将来的には、資金調達手段の多様化や事務コストの削減等が期待できるものの、「電子記録債権」を管理する「記録機関」の設立や、実務手続の整備、決済等の関連システムの整備等には、まだ相応の時間を要することが見込まれます。
制度の運用開始後も当面は現行の手形決済システムが並存する可能性が高いものの、大企業などの取引先が「電子記録債権」へ移行する場合には中小企業に同様の対応が求められます。中小企業としては「電子記録債権」を受け身として捉えるのではなく、資金調達手段として積極的に活用することも検討すべきと思われます。
これから順次整備されていく具体的な制度内容や運用方法の理解に努めるとともに、取引先や取引金融機関の動向に注意し、「変化」を「チャンス」として活かす姿勢が必要でしょう。
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