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2008年8月号 退職金制度改定には高度な経営判断が必要!

今回は、退職金制度の改定にあたって留意すべき事項について確認をしてみます。

1.退職金の法的性格 ~既得権~

退職金制度改定時において認識しなければいけない事項の一つに、既得権があります。退職金は、会社による恩恵的な性質のものであり、その支給額や支給ルールについては特段の制約を受けない、つまりその時の会社の事情でいかようにでもできると解されていることがあります。

しかし、退職金規程が現に存在する、または過去の慣例として退職金が支給されているとした場合、退職金は会社の事情でいかようにでもできるといったものではなくなり、月例給与同様に賃金債権としての性質を帯びることになります。つまり既に確定している支給額、すなわち既得権については、月例給与も退職金もその性質において何ら変わるところはなくなるということです。

2.給与と退職金にみる既得権の違い ~不利益変更の場合~

既得権そのものの考え方については本質的に両者同様ですが、仮に制度改定時においてその既得権を軽視した場合、給与と退職金とでは、会社に与えるその影響度に大きな違いが生じる可能性があります。

まず給与において見ていきます。
たとえば給与において先月まで支給されていた家族手当が、会社の一方的な給与規程の改定により今月から廃止となった場合、問題が表面化するのはいつでしょうか。当然、今月の給与支給時です。

少なくとも先月まで家族手当を支給されていた社員からは、既得権を侵害された不利益変更として何らかのアクションが会社側にあります。会社側は、そのアクションに対して対応を迫られることになります。説明をし、同意を求める、または先月までの支給対象者に対してのみ引き続き支給するといった対応が考えられます。

では退職金制度においてはどうでしょうか。給与と比較してどのように異なるか、同じように既得権の侵害を例にした不利益変更で確認してみます。
給与規程の改定の例と同じく、会社側から何ら説明がなかった場合を想定してみます。
改定の前の規程において200×年3月末時点で本来確定されなければいけない金額(既得権)を、規程改定に際して一律20%引き下げたとします。この場合、この不利益変更が社員の知るところとなる、すなわち表面化するのはいつでしょうか。おそらく退職間近か、もしくは給与の場合と同じく支給された時、すなわち退職した後ということになります。

つまり退職金規程改定から現に退職者が発生するまでの間は、会社側にとって対応が迫られるような問題が生じないということがあり得るのです。退職者の発生は不定期です。もしかしたら、規程改定後、数年経った後に初めて退職者が発生し、不利益変更の事実が表面化するという事態も考えられるわけです。

同じ不利益変更であっても、その問題が表面化する時期が給与規程の改定の場合と大きく異なるということが、退職金規程の場合には生じ得るわけです。

3.退職金にみる問題先送りの危険  ~対外構図・期待権~

問題の表面化が先延ばしになっているという事実は、すなわち問題を潜在化させてしまっていることにもつながります。問題が潜在化し、時間ばかりが経過する一方で規程改定前の既得権は脈々と生きていますので、この問題が根深いものになる要素は十分に備えているといえます。

また、給与規程改定の場合は、現に在籍している社員がその対象であり、言わば内部問題としての対応で済む可能性が大でありましたが、退職金の場合おいては、少し状況が異なります。対象は退職した社員ということになりますので、内部問題として対応できなくなり、“会社”対“外部”という構図の中で対応しなければいけない可能性が少なからずあるということです。

問題対応にあたり、退職金に関わらず相手側が、“内部”の場合と“外部”の場合とでその複雑性に大きな相違があることはご承知の通りです。また、“外部”である退職した社員は、通常会社との利害関係が既にありませんので、そこには妥協の気持ちはありません。まして、合理的な理由もなく一方的に行った不利益変更に対して、会社側に有利な決着を見るとは、過去の判例を見る限り到底言えません。

前述までの例は既得権の侵害について述べてきましたが、既得権と類似する権利として期待権というものがあります。
期待権とは、現行規程が継続された場合に予想(期待)される将来の支給額を言います。仮に既得権については保障し、期待権の部分については、規程改定を機に引き下げるといった場合においても、その問題の構造は既得権の場合と基本的には同じです。

しかし、この期待権の引き下げについては、不確定要素を含んだ権利であることから、社員への説明のしやすさは既得権の場合の比較ではなく了承が得られやすいと言えます。これを何ら説明もなく行ったとした場合、社員側に生きている規程は改定前の規程ということになり、既得権の場合とその問題の構造は同一の性質を帯びることになります。

4.労働者の権利意識の高まり ~社員への説明同意~

こうして見ると社員への説明・同意を伴わない退職金規程の改定が、将来にわたっていかに会社側にとって危険を内在させたものであるかが分かります。そして、労働問題が今後益々世間で取り沙汰され、自社においても労働者の権利が改めて認識されはじめた時、自社で抱えるその危険は、単なる危険では留まらない可能性が十分にあるわけです。

退職金制度の改定は確かに実務的なレベルの話しです。ですが、実務面のみを注視して制度改定を行った場合、単なる労務トラブルに留まらず、労働紛争という思わぬ経営問題に発展してしまうこともあり得るわけです。

5.退職金制度改定の必要性 ~人事政策とのマッチング~

そうは言ってもこの退職金制度。雇用環境や労働者の就業意識が以前と比較にならないほど変化する中で、現在の退職金制度が会社の意図している本来の支給意義からかけ離れてきているという現状も事実としてあります。

退職金制度は、人事制度の一部です。もし、自社の人事政策とミスマッチを起こしているのであれば、改定の必要があるかもしれません。既得権は過去のものと認識した上で、一度現行の退職金制度を確認してみてはいかがでしょうか。

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