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企業再生税制を活用した私的整理による事業再生~「評価損の損金算入」及び「期限切れ欠損金の優先控除」~
「ターンアラウンドマネージャー 2006年12月号」 銀行研修社
みらいコンサルティング株式会社 FAS部長 清水淳二
みらいコンサルティング株式会社 改革アドバイザリー部長 笠松卓史
平成17年度税制改正により、いわゆる“企業再生税制”の活用が広く認められた。一定の要件のもとに、債務免除益に対する「含み損失の損金計上」と「期限切れ欠損金の優先控除」が私的整理においても認められるこの制度の活用は、再生局面にある企業にとっては極めて有効な手法である。
事例会社の概要
本事例で取り上げるA社は、設立70年を超える素材メーカーであり、A社が属する業界としては数少ない独立系の企業である。 A社は、不動産や有価証券の含み益を活用した積極的な設備投資や同業社の買収により業績を拡大し、直近の売上高は約80億円となっていた。
株主構成は、社長はじめ親族が100%保有であり、役員の過半数も親族で占める、いわゆるオーナー企業である。
経営危機に直面して
A社が経営危機に陥った主な理由は、収益管理の甘さにあった。
素材メーカーという業種特性上、多額の設備投資が必要であり、資金調達の大半を資産余力を背景に借入金で賄っていたものの、 借入金を返済するに足る収益(キャッシュフロー)を確保できない状況が長期間継続していたのである。その結果、過剰債務体質になるとともに、 新規の資金調達ができず、設備は老朽化し、競争力が低下するという悪循環に陥ってしまっていた。
A社が長年にわたって低収益のまま推移した要因は、市況頼みの経営であり、製品別・工場別の損益把握ができていないなど経営管理体制が杜撰であったことである。 すなわち、販売単価の下落等外部要因の影響を受け、不採算部門で資金流出が続いているにもかかわらず、収益体質の実態を把握し、 計画的かつ抜本的に改善する試みがなされてこなかったのである。さらに悪いことには、資産余力に依拠した借入による赤字補填資金の調達が常態化したため、 一層負債が増加する結果となってしまった。
直近決算において約18億円の債務超過に陥っており、財務デューディリジェンスによると、実態バランスベースでは41億円の債務超過であった。
財務デューディリジェンスによる主な修正点は、在庫の評価減と減価償却不足であった。 在庫は帳簿棚卸のみで実地棚卸が行われておらず、不良品や廃棄品がそのまま在庫に計上されるなど、簿価と実際の評価額には大きな乖離があった。
また、減価償却は利益の調整項目として使われており、業績の悪い年にはほとんど減価償却を行わず、結果として直近決算において20億円近い減価償却不足が生じていた。
再生スキームの選定
再生スキームの選定に当たっては、A社が法的整理を行った場合の取引業者や従業員への直接的な損失・被害に加えて、 「地元大手メーカーの倒産」による地域経済に与えるインパクトの大きさを考慮して、私的整理による債務免除が選択された。
再生計画の策定に当たっては、同業の大手スポンサー企業による支援を前提とした。 その理由は、(1)相応の規模を持ちながらも、経営は全てオーナーである社長が握っており、会社の財務内容や資金繰りの状況を把握している役員は他におらず、今後の経営を任せられる人物が社内に見当たらなかったこと、 (2)再生をより確実にするため仕入・販売・経営管理力の強化が必要であったこと、 (3)財務上の観点からも、スポンサー企業から出資を受け、金融機関の支援額を最小限にとどめる必要があったこと、などである。
企業再生税制の活用
再生スキームを策定する中で一番大きなポイントとなったのは、債務免除益に対する課税をどう回避するかという点であった。
A社の場合、大幅な債務超過の原因となっている減価償却不足は、機械装置の除却でもしない限り一度に損金計上することができず、 また10数年前に多額の損失を計上し発生した欠損金はすでに期限切れになっており(期限切れ欠損金額は約12億円)、債務免除益を相殺できるだけの損金を保有していなかったのである。
この課題に対応するため、平成17年度税制改正による「企業再生の円滑化を図るための税制措置」(いわゆる「企業再生税制」)を活用することにした。この税制措置により、債務免除益に対して「含み損失の損金計上」と「期限切れ欠損金の優先控除」が認められた。 従来、民事再生法等の法的整理に限定して認められていたものが、"一定の要件"を満たす"私的整理"においても認められるようになったのである。
"私的整理"には、私的整理ガイドライン、中小企業再生支援協議会、整理回収機構を利用するものがあるが、 今回は中小企業再生支援協議会を利用する"私的整理"を行うことにした(平成17年6月21日付で中小企業庁が発表した「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順 (「再生計画検討委員会」が再生計画案の調査・報告を行う場合)」(以下、「策定手順」という)に従って策定された再生計画も企業再生税制の対象となった)。
"一定の要件"とは以下のとおりである。
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この措置を受けるためには、通常の私的整理に比べ、より厳格な手続きが求められる。 そのため、策定手順にも記載されているとおり、弁護士、会計士からなる「再生計画検討委員会」(以下、「検討委員会」と称す)を設置し、 検討委員会は、策定手順に従い適正かつ合理的な再生計画の策定が行われているかどうかを検証することが要請されている。 検討委員会の調査を受け、前記四つの要件を満たしていると認められたものに限り、税制上の恩恵が受けられるのである。 |
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本事例においては、具体的に下記のような日程で手続きが進められた。
実務的には、検討委員会の調査を受けるに当たって、計画の実行可能性や再生計画案の合理性を高めておくことが必要であり、 再生計画とそこに至る経緯や背景について十分に説明することがポイントとなる。なお、専門家である検討委員への報酬を考慮すると、 ある程度の規模の案件でないと報酬を負担することは難しいと思われる。
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事業再生計画の骨子
A社は、大手スポンサー企業の完全子会社として、その指導の下、新たな体制で事業の再生を図ることになった。スポンサーによる支援の主な内容は、以下のとおりである。
1.完全子会社化
スポンサーを割当先とする第三者割当増資を実施し、既存株主は、その保有株式の全部をA社へ無償譲渡し、A社はこれを無償償却する。これにより、A社はスポンサーの完全子会社とする。
2.経営陣入替えによる経営管理体制の刷新
現経営陣は全員が退任し、その後、スポンサーから過半数の役員の派遣を受け、スポンサーによる経営への主体的関与を通じて経営管理体制の充実を図る。
3.組織改革の実施による損益管理体制の構築
抜本的な組織改革を実施し、製品別・工場別の損益管理体制を構築する。 具体的には、(i)スポンサー企業から部・課長クラスの管理職社員の派遣を受け、各工場に設置されていた総務課、資材課、新設する経営管理課を統括する管理本部を設ける。 (ii)経営管理課に、「工場別・事業別管理」「予算管理」「月次計数管理」「システム構築」を分掌させ、経営管理の強化を図る。
4.システムの導入
組織改編によって新設される経営管理課において、工場別・事業別管理、予算管理、月次計数管理を行うとともに、それに必要とされるシステムの構築を実施する。
5.コストダウン
業界環境は、中小企業間・大手メーカーとの競合が激しさを増しており、コストダウンをいかに行うかが大きな課題となっている。 スポンサー企業との共同購買により調達コストを削減するとともに、スポンサーからの技術サポートを受け歩留まり率の向上を図ることにより、コストダウンを図っていく。
6.販売力強化
販売については、スポンサー企業主導の下、代理店・卸商等の販売戦略の見直し(販売価格の適正化、販売運賃の引き下げ)を行うとともに、 営業強化のための人員増加、管理面の強化を行っていく。 また、販売の中心となる製品を単価の低い製品から単価の高い製品へ移行させ、売上を増加させるとともに、採算を改善させる。
7.設備投資による品質向上
現状の問題点は、機械設備の老朽化と品質管理の不徹底により品質レベルが同業他社と比較すると大きく劣っており、それが値引き販売の増加を招いている点である。 今後、スポンサーからの資本を活用し、機械設備を更新して生産効率と品質の向上を図るとともに、検査ラインの充実を図り不良率の低下を図る計画である。
財務改善計画の概要
1.債務免除
A社は、対象債権者である金融機関から合計35億円の債権放棄を受ける。
2.スポンサー企業による出資
A社は、スポンサー企業に対し、15億円の第三者割当増資を実施し、資本の増強を図る。
3.社長による私財提供
社長の私財(不動産)は売却し借入金返済に充当するとともに、A社への貸付金についても全額放棄する。
社長の決断
本事例においては、経営責任をどう取るかについて社長と金融機関の交渉は難航した。 そもそも社長は自らの会社が「再生」を必要とする事態にあることを理解していなかったのである。
金融庁から不良債権処理を迫られる金融機関にとって、大幅な債務超過かつ過剰債務である企業の「処理」が必要である事実はわかってはいても、 過去数十年間にわたって金融機関の支援を受け続けた社長にとって、手の平を返したような態度は「今なぜ?」との思いが非常に強かったのである。
金融機関の所管が支店から本部に変更となり、日常的なコミュニケーションがなくなり人間関係のできていない本部の人間と社長との交渉は困難を極めた。 金融機関にとって合理的な判断であっても、一方的な「通告」と感じた社長の反発を買い、電話にも出ず交渉が暗礁に乗り上げたこともあった。 このことは、金融機関が企業を正しく理解せず、社長と人として真っ向から向き合わなかったために生じたものと思われる。
本事例において当社は"私的整理"手続きに入るまで1年以上の時間を費やした。 当初、金融機関からの依頼を受け、再生への方向性や可能性を検討する短期調査を実施した。 その後、社長の納得が得られるよう時間をかけて金融機関の考え方を説明するとともに、自力再生による事業計画のシミュレーションを何度も行った。 そして、漸く自社の努力のみでは関係者が納得する将来像を描けないことを社長は理解するようになり、自社の経営権を手放し、 スポンサー企業の下で事業を再生させるというオーナー社長にとっては極めて重い決断をするに至った。 この決断には金融機関、スポンサー企業、コンサルティング会社など多くの関係者の後押しが必要であったのである。
まとめ
「メガバンクや大手地銀の不良債権処理は終了した」という話を良く耳にするが、現場にいて感じることは、 「"金融再生"は終了したかもしれないが、"事業再生"はまだこれから」ということである。 特に地方の再生案件から感じることは、名門・老舗企業ほど過去の好業績や資産余力に隠れて想像以上の毀損が進んでいることである。 また、意図の有る無しに関わらず、粉飾決算が行われ、実態を把握するのに時間がかかるケースも多い。 金融機関も業績悪化や粉飾決算の兆候に気付いてはいるものの、地元経済への影響の大きさから、その対処に躊躇してしまい、 結果として金融機関と企業との「馴れ合い」や「経営者の甘やかし」が生じている。
「再生」を必要とする経営者は、再生したいという強い思いを示し、情報開示に向けての誠実な態度が必要である。 そして、「自分」ではなく、「事業」や「従業員」を守る姿勢が望まれる。
一方、金融機関は生き物であり、日々変化する企業を一律の「モノサシ」ではなく、複合的な眼で「正しく理解」し企業を再生させる基本方針が必要である。 その結果が、特に地域金融機関に求められる「地域も守る」という公共性に結びつくのではないだろうか。
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