Series事例紹介〜SDGs経営・Co-Creation等〜
2020.01.29
経営者のビジョンを後押しする「価値の世界基準」SDGs
経営者のビジョンを後押しする「価値の世界基準」SDGs
-水野染工場
北海道旭川市にある株式会社水野染工場は、1907年(明治40年)の創業以来、大漁旗や半纏、手ぬぐい等を伝統技法「印染」で製造販売する百年企業です。職人不足や技術伝承の課題も多く衰退が危惧される伝統産業の中で、右肩上がりの経営を続ける、業界内外で注目の存在です。
現社長の水野弘敏氏は4代目。一言でいうと「挑戦の人」です。
家業を継ぐため1997年に入社したものの、年配の職人さんからなかなか技術を教えてもらえず、「伝統は革新の連続である」をモットーに改革に取りかかりました。一人前の職人になるには数十年かかる業界の常識に疑問を持ち、製造プロセスや口頭で伝承されてきた技術を分析、独自でITシステムを開発して、社員で共有できる仕組みを作りあげました。
例えば、組み合わせが数万通りある5000色の染料の調合方法をすべてデータ化し、任せるには数年かかると言われてきた色調合の工程を、同社では入社間もない新人がおこなっています。また、未経験の若い人材を積極的に雇用し、IoTの仕組みと徹底した社員教育により、短期間で職人に育て上げます。社員の平均年齢は35歳、うち7割が女性社員という、熟練の男性職人が多い伝統産業において稀な存在となっています。
ビジネスモデルの転換にも挑戦。2004年には、手ぬぐいの本場浅草に自社オリジナルデザインの手ぬぐいを販売する「染めの安坊」を出店。海外にも積極的にアプローチすることで、下請体質からの脱却を果たし、自社の采配で年間の生産計画を立てられる安定経営を実現しています。
ここで、水野染工場の成長要因をSDGsの17の目標に照らし合わせてみましょう。
「目標4:質の高い教育をみんなに」
「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」
「目標8:働きがいも経済成長も」
「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」
など、次々にあてはまる項目が見つかります。社員の幸せと地域の発展を追い続ける成長企業の行動そのものにSDGsの概念が浸透していることがおわかりいただけると思います。
水野社長の夢にはまだ続きがあります。それは、地元旭川に「染めのテーマパーク」をつくること。原料である「藍」を育て、誰もが染め体験ができ、アーティストのギャラリーや地産地消の食も楽しめるテーマパークを構想しています。敷居の高いイメージのある伝統産業をより身近に、より親しみやすく、結果として、未来に繋がる伝統産業であり続ける―。水野社長のビジョン、事業を通じて世に提供したい価値はますます明確になっています。
今、同社では、SDGsの目標と自社の取り組みを紐づけ、さらにできることは何か、を考え始めています。その経営は、「世界が求める価値」の提供へと進化していくことでしょう。水野社長が提供しようとする「価値」の重要性を、これからの企業価値の世界基準とも言える「SDGs」が裏付けていくはずです。
経営者は、世に必要とされる価値を提供し続け、企業を存続させ続けなければなりません。SDGsは、その厳しい道のりが目指すゴールに光を照らし、挑戦する背中を後押ししてくれる世界共通の価値観です。自社の持つ課題、資源、可能性を「SDGs」で紐解くことは、世界が求める価値提供に向かって、自信を持って歩みを進める道しるべとなると信じています。
水野染工場
【所在地】北海道旭川市大雪通3丁目488-26
【創 業】1907年【代表者】水野 弘敏(4 代目)【従業員数】40名
【グループ会社】染の安坊《浅草本店》、染の安坊《浅草別館》、染工房1907
【主な商品】大漁旗、よさこい旗・衣装、半纏、暖簾、幌前掛、手拭いなど
〈執筆者〉
みらいバリュークリエイティブ株式会社
代表取締役 吉田聡子
みらいバリュークリエイティブ(以下MVC)は、企業の「強み」を見つめて企業ブランディングの構築とプロモーションを行うクリエイティブ会社と、企業の「課題」を見つめて経営支援を行ってきたみらいコンサルティングが、企業が持つ「真の価値」に着目して設立した会社です。
この場合の「価値」とは経済的価値ではなく、その企業が存続し続けられる源泉=存在意義(パーパス)と捉えていただいても良いかもしれません。MVCでは、価値を徹底的に掘り下げ、言葉にし、磨き、つなげ、世の中に何を提供できる存在なのかを明確にする支援をしています。