みらいコンサルティンググループ

持続可能な事業で「結果としての地域創生」へ

地域の一次情報を見聞するためにも実施しているワーケーション企画で、九州は長崎県の対馬を訪問させていただきました。

ご存知の方も多いと思いますが、対馬は隣国韓国から50キロ程しか離れておらず、歴史的にも大陸との接合点として重要な役割を果たしてきた島です。主要な産業は観光業と漁業ですが、統計上人口はピーク時の半分以下、コロナ禍や水産資源の枯渇といった課題にも直面しています。

 

今回ご紹介する方は、合同会社フラットアワーの代表、銭本慧氏。水産関係の研究者として貢献されていたご経歴をお持ちです。

(銭本氏のご経歴はこちら

銭本氏は現在、一本釣りした魚を丁寧に締めて、全国の飲食店や個人の顧客に直送するモデルを確立、持続可能な漁業を目指して尽力されています。

起業の背景、経緯から現在に至る考え、これからのことをお伺いするうちに、ひとつのことに気づかされました。

 

それは、「地域創生」というカテゴリーで考えたときに、地域で起業し尽力する方々は地域創生のためにがんばってる、という風に捉えがちですが、それは普段は都会にいる者の勝手な解釈で、実態は、それぞれの事業を何らかのカタチで成功させるべく尽力し、それが結果的に地域の雇用や投資に繋がっている、という冷静に考えればあたりまえの事実です。

 

銭本氏は、たくさん獲って大量に売る、というサプライチェーンモデル「しかない」、という水産業界の課題解消に挑戦している、のだと思います。決して現状を否定するわけでなく、単純に選択肢を拡げていらっしゃるのです。

大量生産・大量消費社会のために構築された流通の仕組みでは決して埋めることのできない隙間、そんなにたくさんの量は獲れないという地域漁業者の悩みと、鮮度の高い素材を少量使いたいというニーズ、をうまく結びつけた、ということなのでしょう。

 

銭本氏に将来の展開を伺いました。ご自身のビジネスをそのまま大きくすることをお考えなのかと思いきや、そうではなく、他の地域の小規模漁業者にこのモデル自体をパッケージで活用してもらえれば、というお考えでした。よく考えれば、そもそも規模の経済を追求するのは本末転倒ということなのかもしれません。会社は大きくするべきもの、という凝り固まった価値観だけではない、という本質にも気付かせていただきました。

 

いま、銭本氏のところには、全国の企業や団体が視察、研修に訪れているそうです。交流人口が増えれば、周辺では宿泊や物販といった需要も生まれますし、決して大きくはないかもしれませんが経済の好循環が発生しています。

厳しくとも豊かな自然の中で生き、価値ある資源を有効に活かす。「社会課題の解消」というよりもむしろ「持続可能な社会のあるべきひとつの姿を取り戻す」、という本質的な取り組みが、結果として静かに地域創生に貢献している、ということではないでしょうか。

 

<執筆者>

九州成長ラボ株式会社

下阪 安勝