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2023.03.01
世界を駆ける経営

【深圳レポート】中国テックジャイアントが「医療領域」に参入

【深圳レポート】中国テックジャイアントが「医療領域」に参入…

※本記事は、深圳イノベーションセンター(MICS)会員に限定配信している「MICS NEWS(vol.73)」に掲載されたものです。なお、掲載内容は2022年8月時点の情報です

 

アマゾン(Amazon)が、188か所のクリニックを有する医療サービスのスタートアップであるワン・メディカル(One Medical)を39億ドル(約5300億円)で買収したと発表したのが、2022年7月末である。 その後、中国のバイトダンス(ByteDance)が100億元(約2000億円)を投じて、富裕層向け婦人小児病院である美中宜和(北京美中宜和医療管理集団)の持分を取得して、さらに業界を驚かせている。

テック大手が医療サービス領域に参入するのは珍しいことではない。テンセント・JD・アリババグループなども医療事業を展開しようとしている。なお、バイトダンスの医療分野での投資も、初めての動きではない。

2020年から現在に至るまで、一連の投資、買収などを通じて、すでに医療・ヘルスケア分野での「オンライン + オフライン」モデルを初歩的に実現し、業務内容はDNAシークエンシング・インターネット医療・メンタルヘルス・産科小児科など多くの分野をカバーしている。

 

100億元の投資、果たしてその費用対効果は?

◆ 買収の中核的価値—生殖補助医療業務

冒頭にあったバイトダンスにより買収された「美中宜和」は、2020年に北京宝島産婦人科病院を買収して運営を統合した。

2021年5月まで、北京市の生殖補助医療実施医療機関は12ヶ所(民営3社+公立9社)のみである。「美中宜和」はその12社中の1社である。

買収によって、同社は希少な北京市民営病院の生殖補助医療の免許を取得することができた。

北京市の人類生殖補助医療技術の応用計画によると、2025年まで、北京市内の生殖補助医療実施医療機関は15ヶ所を超えないとしている。よって、残った免許枠は3個しかないことになる。生殖補助医療施設認定の申請にかかる時間は長く、さらにビジネスモデルも段階的に展開する必要があるため、近年の競争構造の変化は大きくないと予想されている。

従って、バイトダンスが重視したのは、美中宜和の将来の発展における中核的な競争力であると思われる。

データによると、2007年から2020年にかけて、中国の不妊症発症率は12%から18%に上昇し、平均7組の夫婦のなかに1組は不妊・不育の悩みがあり、毎年生殖補助医療技術を通じて生まれた赤ちゃんは30万人を超えている。

中国の生殖補助医療の市場規模は2023年に496億元に達し、複合年間成長率は14.5%に達する見通しだ。

生殖補助医療以外、バイトダンスが美中宜和を買収したのは、その「オフライン事業」にも注目したと思われる。美中宜和は、オンライン医療機関ではなく、実体を有する病院であるため、自社の病院で率先的に試験をおこなうことができるだけでなく、よりよい製品と実例を収集することもできる。さらに、多くのIT企業が医療システムに入りづらかった問題を直接解決した。

 

◆「明確化したターゲット」で病院の発展を後押し

同時に、美中宜和のような顧客開拓を必要とする私立病院にとって、バイトダンスからのトラフィックは今後のターゲット客につなげることができる。

バイトダンスの傘下のTikTokのDAU(デイリーアクティブユーザー数)はすでに6億人を突破した。2021年12月時点で、TikTok女性ユーザーは51%となり、そのうち19~30歳(25.1%)と31~40歳(25.2%)が主な客体となっている。また、家庭内部のメンタルヘルスケアを担う「主要な責任者」も一般的に女性が担当しており、自身のメンタルヘルス需要以外、子供や家族のためにも積極的に「問診」する傾向がある。

さらに、女性は男性よりも高い社交的な属性をもっているため、病院の口コミをより速く広げることができ、TikTokのトラフィックからより多くの収益を生みだすことができる。

また、TikTokのユーザー層は、2級以上の都市では40%を超え、3級、4級、5級および以下の都市ではそれぞれ25%、18%と17%を占める。

一方、美中宜和の多くの病院は1級都市にあるので、美中宜和にとっては、一般適齢女性にしても、生殖補助医療に関するニーズがある高齢産婦にしても、TikTokから1級都市以外の顧客を誘導することはとてもメリットがある。

IT大手は医療サービス事業を加速化しつつある

2021年10月まで、百度健康(Baiduのヘルスケアプラットフォーム)が提携するトップグラス医療機関は200社を超え、同社は医療データリソースと患者を正確に連結することができる。

テンセントは「C2B二輪駆動」戦略を通じて業界の深い融合を推進し、個人ユーザーと業界の両面において、電子健康カード、医療保険電子証明書、医療補助ツール、医学情報から力をいれ、デジタル化した医療モデルを構築している。

JD健康(JING DONGのヘルスケアプラットフォーム)は、業務を小売薬局とオンライン医療健康サービス業務に分け、自社の「小売薬局」業務とサプライチェーンにおける実力を利用して、オンライン医療健康サービスを拡大し続けている。

2018年、アリババ健康(アリババのヘルスケアプラットフォーム)はオンラインとオフラインを一体化したインターネット級別診療システムの構築に着手し、2020年、アリババ健康はデジタル化医療をスタートし、医療業界のデジタル化のインフラ構築を開始した。

百度・アリババグループ・テンセント・JDのどちらにしても、自社の医療業界に対する理解をもとに、企業の「バブル方式医療生態」を整備しつつある。

各社の業務は過去のオンライン配置から、オフラインへ展開し続けており、医療を必要とする場所へ浸透させていくだろう。

 

IT大手の医療領域での展開は、長くて険しい道のりである。

IT大手が、オフライン医療サービスに続々とかけ込んでいるが、一番重要なのはオンライン医療とオフライン医療を切り離せない相互性にある。

◆医療サービスの現場において、実際にフェイストゥフェイスで構築された信頼感と安心感は、オンライン医療で代替できないものである。

◆オフライン医療サービスと比べ、ユーザーがオンライン上で診断できるのは、よくみられる病気や慢性病の再診であり、検査や手術などの項目はおこなうことができない。

◆オンライン医療は、より強い統合効果をもっており、オフラインサービスのコスト削減を推進でき、オフラインサービスのフィードバックとデータをオンラインサービスに提供することも可能。

よって、オンラインとオフラインの融合はデータの相互接続に注意するだけでなく、サービスフローの一貫性も大事であり、オンラインプラットフォームとオフライン病院の協力を深めるなど、相互協力を促進しなければならない。

また、実態がある多くの医療機構は高額な資金を投入する必要があり、チェーン展開するには倍以上のコストがかかる。

そのため、オフラインサービスのネットワークを拡大するには、コストのコントロールを前提としなければならない。

もちろん、現在インターネット医療業界が直面している問題は依然として多い。10年以上発展してきて、やっと「薬剤を販売する」ことにまでたどり着き、特に明確なビジネスモデルがみられず、まだまだ模索期にあるのも現状である。

しかし、バイトダンス・アマゾンなどのテックジャイアント企業がオンラインでインターネット医療を構築したり、オフラインで医療サービス機関を買収や合併するような動きをみせていることから、大手なりに戦略的な発展の可能性を見出しているに違いない。

ただし、注目すべきなのは、医療健康領域は、業界自身の特殊性があるため、各参入者は十分な忍耐と謙虚さをもつ必要がある。

いずれにしても、アマゾンおよび中国テックジャイアント企業の医療領域での展開が多くの人々に健康と幸福をもたらしてほしい。

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