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中国における老齢化問題と、拡大する介護市場参入への企業戦略
中国は今、深刻な老齢化問題を抱えています。1979年から2015年まで行われてきた中国政府による人口抑制制度「一人っ子政策」は、結果的に中国国内における人口構成と年齢層に大きな偏りを生じさせました。国連の推計によると中国は2025年には高齢化社会を迎え、さらに2035年には中国国内における65歳以上の高齢者の比率が国内人口の21%にも上る超高齢社会となる見通しです。
その一方で、老齢化問題が抱える課題の解決策として、中国国内では今、介護事業への関心が高まりつつあります。本稿では中国の老齢化問題と介護市場について紹介します。
中国の人口減少と高齢化社会
中国は世界人口の約2割を占める大国です。しかし、国連の推計によると2020年を境に中国の人口は減少に転じると予測されており、その理由として中国の「一人っ子政策」が挙げられています。中国では、建国直後からたびたび生じてきた爆発的な人口の増加に対して食糧生産の伸びが芳しくなく、この対策として、1979年から人口抑制のための計画出産「一人っ子政策」を制度として定めました。しかしそれは人口構成に大幅な偏りを持たせることにつながり、今後、中国は高齢化社会に突入することが予想されています。
65歳を超える中国の高齢者人口は2020年には1.7億人、2030年には2.3億人と算定されており、人口構成をピラミッドグラフで見ると日本の高齢化社会に酷似しています。一方、2015年に発表された日本の高齢者人口が3,400万人である点から比較すると、中国の高齢者の規模は日本の数倍にも匹敵することがうかがえます。
中国は国土の広い国であり、高齢者の割合も地域によって異なります。高齢者が増えつつある地域としては、遼寧省や吉林省、黒龍江省などの東北部が全国の平均を上回っており、また北京、上海、天津、浙江省などの大都市圏も老齢化が進んでいます。
中国国内ではこれら高齢化社会への危惧を「未富先老(生活が豊かになる前に老いる)」や「未備先老(老後の準備ができる前に老いる)」と言った言葉で語るようになっています。
中国の介護市場と現状
高齢者が増える一方で若者が減る。このような状況になると、そこにはどうしても介護をする人が必要になります。このため、中国国内では今、介護事業に対して関心が集まっています。中国では介護サービスに対してまだまだ未熟な点が多く、介護に関する専門知識や技能を持っている人が非常に少ないのが実情です。
その理由は、中国では介護事業に関わる人は社会的地位が低く、かつ薄給と認識されがちであり、その結果、充実した教育を受けていない農村部の農民などが従事者になることが多いためです。また、介護に関する中国政府の教育や環境整備も未熟で、介護事業者が育ちにくいことも要因の一つです。
●既に参入している外資系サービスも
このような市場ニーズに対応するため、外資系企業の中には既に介護事業に参入しているところもあります。これらは、
①CPM、Emeritus、Fortress、ABHOWなどの「アメリカ系」
②リエイ、ウイズネット、大阪ロングライフホールディングス、韓国Shuyou Groupなどの「日韓系」
③ColiséeとOrpeaなどの「フランス系」
の3つに大別されます。
外資系サービスの多くは、主に北京、上海、広州などの第一線都市、大連、青島、常州、南京(特に長江デルタ地域)の第二層都市で事業展開をしており、富裕層を狙っているのが特徴です。また、古い施設を改装利用して、フランチャイズチェーン経営を展開したり、ローカル企業と戦略的なパートナーシップを結んだりと介護事業に加えて派生産業にも積極的に参入しています。
日本式介護事業に魅力はあるのか
中国の介護事業に外資系サービスが続々と参入しつつある中、日本式の介護事業にプライオリティはあるのでしょうか。この点については「認知症ケア」と「リハビリテーション」に大きな魅力があると言われています。
中国国内では認知症に関する研究が未熟です。日本と比較すると30年前後は遅れていると言われることもあるほどです。中国人にとって認知症は完全な病気であり、投薬で症状を抑えるのが一般的といった現状があります。このため、日本式の認知症ケアやリハビリテーションは中国人にとって新鮮な驚きをもって迎え入れられる特殊な技術であり、これらの提供は大きなプライオリティとなる可能性は十二分にあります。
文化の違いは障壁になるか
日本と中国、似ているような文化であっても、やはりいくつかの違いは生じるものです。介護事業というのは、顧客の家族関係やプライベートに踏み込むといった側面もあります。実際、介護事業を行うにあたり、予備知識がなかったために文化的な違いが障壁になったというケースも存在しています。
●親を敬う儒教文化が考え方の違いに
中国は儒教文化の国であり、日本人が思う以上に両親をとても大切にします。老人ホームや介護事業なども、親にサービスを受けさせる子どもにとっては、子どもの都合ではなく、あくまでも親孝行のためのサービスであるという気持ちが強いのが特徴です。
このため、自分で動ける健康な生活を目指す「自立支援」といったような日本的な考え方には中国人はあまり賛同しません。中国人からすると、お金を払っているのだから身の回りのことはすべてスタッフが行い、自分の親は楽であるべきと考えている面があるのです。
中国人から見た介護事業への希望としては、ただ事務的な作業ではなく、質の良いサービスを、できれば安価で受けさせたいというのが本音と言えるでしょう。
●富裕層を狙うなら、質実よりも豪奢を
中国では将来、数億人の単位で高齢者が増えると予測されています。このため、安価で良質なサービスを受けさせる介護事業には需要が出てきます。しかし現在のところ、外資系サービスの多くは富裕層を狙った事業を展開しています。そして、ここにも日中の文化的な嗜好の違いが生じることがあります。
日本の富裕層は飾り気のないシンプルなものを好む傾向があります。侘び寂びの精神とも言えるでしょう。しかしそれは中国人の富裕層からすると、せっかく高いお金を払ったのに質素過ぎると映ることもあるようです。中国人の富裕層はどちらかといえば豪奢なものを好みます。非常にわかりやすいお金持ちのかたちであるとも言えます。
この違いがわかっていないとせっかく高級老人ホームを建てたのに、見学に来た中国人を落胆させてしまう結果にもなりかねません。
将来を見据えた戦略的な経営展開を
中国における介護事業は莫大な潜在顧客を抱えたブルーオーシャンです。しかし同時に所得の低さや文化的な差異など、いくつかの課題も存在しています。中国の高齢化社会は既に萌芽しつつあるため、長期的な視野を持った戦略的な経営で早めに市場参入し、いくつかの課題を乗り越えてゆくことで将来的に大きくシェアを奪えるチャンスにもつながることでしょう。
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