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  1. 採用力向上に大切な視点 ~ファンをはぐくむ上士幌町の取組からの気付き~

Regional Transformation地域創生

2022.12.16

採用力向上に大切な視点 ~ファンをはぐくむ上士幌町の取組からの気付き~

北海道の市町村の取り組みのなかで、企業経営にも活かせるような事例を探していたところ、企業の採用力向上のヒントになりそうな取組を発見しました。そこで今回は、北海道十勝地方にある上士幌町(かみしほろちょう)という町の取り組み事例をご紹介したいと思います。(町役場の方へのインタビュー等は実施しておらず、ホームページ等で公開されている情報をもとに考察させていただきました。)

 

上士幌町は、十勝地方の北部、日本一広い国立公園である大雪山(だいせつざん)国立公園の東山麓に位置し、町内の約76%が森林地帯と自然豊かな町です。広大な土地を利用した畜産業が盛んな町で、人口約4,800名に対し、牛の飼養頭数は約47,000頭もいます。酪農王国北海道の中でも、NO.1の出荷乳量を誇るドリームヒル牧場がある町としても知られています。

 

そんな上士幌町も町のホームページなどを拝見したところ、平成27年頃までは人口減少に悩んでいたようです。ところが、減少を続けていた上士幌町の人口が平成27年頃を境に増加に転じています。また、世帯数の増加は更に顕著に見て取ることができます。世帯数だけでいえば、人口6千人を超えていた平成2年よりも100世帯以上も多くなっています。

 

どのようなことがきっかけで人口増加に転じたのか、その理由を探していたところ興味深い事実を発見しました。それは上士幌町へのふるさと納税の寄附件数・寄附額共に平成27年から大幅に増加しているという点です。

ふるさと納税自体は平成20年5月から始まった制度ですが、開始当初はいまいち火がつきませんでした。ところが、平成27年に「ワンストップ特例※1」が導入されたことで、一気に全国的なブームとなり、利用者・寄附額ともに大幅に増加することとなりました。

上士幌町でも平成26年から平成27年にかけて、寄附額が一気に4倍に増え約10億円に達しました。その後も平成29年までは右肩上がりで増加を続けました(それ以降は各自治体間での競争も激しくなったこと等で増減を繰り返している状況のようです)。

出所:上士幌町ホームページ 北海道上士幌町2021資料編(国勢調査人口・世帯数)

出所:上士幌町ホームページ 上士幌町の歩み ふるさと納税の歴史

 

ふるさと納税の受入増加と人口・世帯数の増加、これらのタイミングが重なっている理由について更に調べてみたところ、ふるさと納税制度を活用した上士幌町の地道な取り組みの成果が人口・世帯数の増加に繋がっているのではないか、という仮説にたどり着きました。

 

ふるさと納税制度を活用した上士幌町の取り組みは大きく分けて2つあることが分かりました。

 

① 「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金」の創設

② 「上士幌町まるごと見本市ツアー」の催行

 

まず①の「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金」は、ふるさと納税で得た財源を主に子育て環境の充実に充てるため、基金として積み立てているものでたとえば、以下のように活用させているそうです。

町内の認定こども園ほろん(定員120名)の「10年間無償化」

・高校までの医療費無償化

・町内に住宅を新築した場合、子ども1人につき100万円を助成

このように子育て世帯に長く住んでもらえる施策を充実させたことで、周辺都市のみならず、本州からの移住者も増えているようです。また、移住者のみならず、上士幌町で育った若者が、実家を出て世帯主として定住していることも、人口の増加に比して世帯数の増加が目立つ理由になっているのではないでしょうか。

 

続いて、②の「上士幌町まるごと見本市ツアー」の催行です。①が「町の魅力UP」のための活動であるのに対し、こちらはその「魅力を伝える」ための活動です。

羽田空港発の2泊3日のツアーで、例えば2018年2月に催行されたツアースケジュールは下記の通りです。

 

■ツアー内容

・1日目…町内の施設や生活体験モデルハウス、冬の農村風景の見学、ウエルカムパーティーなど

・2日目…冬のアクティビティ体験、上士幌町の食材を使った料理の昼食会、移住者との意見交換&交流会など

・3日目…熱気球体験搭乗、ひがし大雪自然館見学など

 

移住者との交流や生活体験モデルハウスなどの体験を通じて、「もし自分が住んだらどんな感じになる?」という部分がイメージできるようなツアーになっています。

また、実際に移住を希望する方から様々な質問を受けることもあるそうですが、その中では魅力だけではなく、「職の選択肢の少なさ」や「冬季間の生活」等の厳しい部分も丁寧に説明することを意識されており、こうすることで、「思っていたのと違った」というミスマッチを防ぐことができているようです。

 

さて、このように上士幌町のふるさと納税制度を活用した人口増加への取組を見てきましたが、企業の採用活動に通ずるところが多くあるという印象を受けました。

 

採用においては、「魅力的な職場をつくる」ことも大切ですが、それと同じくらいその「魅力を伝える」ことが重要です。更には、魅力だけではなく、ミスマッチを防ぐためにも、求める人物像や会社の価値観、うまくいっていないことなどを明確にし、求職者の方に正直に伝えることも必要です。

 

採用がうまくいかない時には、(自社の)「魅力探し」や「魅力づくり」が大切なのは当然ですが、それだけではなく、

・魅力がきちんと求職者に伝わっているか

・自社にフィットする人物像が明確になっているか

という視点も大切だと感じました。このような気づきを得ることができた上士幌町を、ぜひ応援していきたいと思います!

 

※1 確定申告の不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、確定申告を行わなくてもふるさと納税の寄附金控除を受けられる仕組み。ふるさと納税先の自治体数が5団体以内まで等、利用にあたっていくつか条件があります。

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