Regional Transformation地域創生
2023.02.10
農業現場から考える、事業のブレークスルーに必要なコト
札幌市の隣町である江別市の農業生産法人 有限会社萩原農場(以下、萩原農場)の代表であり、中小企業診断士としても活躍されている萩原雅樹社長(以下、雅樹社長)にお話を伺いました。
萩原農場では、レタスを12ha(東京ドーム2.5個分)、白菜を5ha、水稲5.5ha、その他スイートコーンやキュウリを栽培しています。
北海道内で20ha以上の農地を耕作している農業者であれば、一般的には水稲・小麦・大豆など、機械で効率的に収穫可能な作物を主力としている方が多いのですが(酪農・畜産農家は除く)、萩原農場では、手作業で収穫しなければならないレタスを主力作物としています。
どのような経緯でレタスを主力としたのか、また現在はどのような取り組みをされているのかという点を中心にインタビューをさせてもらいました。
決断①
萩原農場はもともと水稲農家でしたが、先代の萩原俊裕前社長(以下、俊裕前社長)のご決断で、レタスを主力作物に転換しました。
江別市はもともと水田地帯であり、2020年時点においても水稲・小麦・大豆が作付面積 トップ3の作物です。
しかし俊裕前社長は研究の末、江別市の気候は、レタス栽培においては露地栽培(ハウスなどの施設を用いず、屋外で栽培する方法)がメインのアメリカ等の気候と近しい部分があり、レタスの露地栽培が可能であると判断し、江別市ではトップランナーとしてレタスへの転換を決断しました。
そのような決断の背景には、ご家族の存在がありました。
俊裕前社長には、雅樹社長を含む5名のお子さんがいらっしゃいます。
そのため当時の水稲を中心とする農業の収益性では、子供たちに十分な教育を受けさせられないという危機感をお持ちになったそうです。
そこで俊裕前社長は収益性の高い作物への転換を模索し、栽培面・販売面両面での試行錯誤の上、レタスの露地栽培を軌道に乗せたのです。
決断②
俊裕前社長の経営を受け継いだ雅樹社長も、レタスを主力とした農業をより一層発展させるべく、尽力されています。
雅樹社長が特に意識されているのは、従業員が継続的に働ける環境の構築です。
具体的には、通年雇用の正社員に対して、労働時間・休日等の待遇面で「普通のサラリーマン」のようなレベルを確保したいとお考えです。
一見すると「普通」に感じられる内容ですが、農業においては難しいことです。
例えば、労働時間・休日の面も、農業は時期によって繁閑の差が激しく、休日を定期的に付与し、長時間労働を防ぐためには、徹底的な業務の効率化と平準化が不可欠になる、といった感じです。
目標達成のため、雅樹社長は数多くの工夫を実行しています。
一例をあげれば、除草を効率的におこなうために、国内では販売されていない除草機(写真)の情報をYouTubeで入手し、農機具の輸入代理店と共に現地メーカーとコミュニケーションを取り、実際に輸入して除草業務の効率化を実現しています。
その他、DX化に向けた投資も数多くおこなっています。
結果、正社員の基本的な勤務時間は9:00-17:00になっているとのことでした。
「想い」が変革の原動力
農業は家族経営の事業者が圧倒的多数であり、また地域の結びつきが強いため、どうしても農業経営者は前例踏襲のやり方や周囲のやり方に走りがちです。
そのような前提がある中、俊裕前社長は「ご家族のため」に、雅樹社長は「従業員の方々のため」に、周囲の農業者が取り組んでいない先鋭的なチャレンジをされています。
どのような業種業態であっても、前例踏襲に偏ってしまうこと、周囲へ同調してしまうことは往々にしてあることです。そしてそういった選択をとることは、現在の延長線上での事業展開においては合理的な選択であるケースも多々あります。
しかし前向きに事業の変革を意識すると、前例踏襲や周囲への同調は足枷になってしまいます。
雅樹社長のお話を伺って、そのような事業成長の足枷を取り払うものは「誰かへの想い」なのではないかと感じました。
萩原農場の事例でいえば、
・後継者である子供たちに十分な教育を受けさせてあげたい
・従業員に今よりも良い労働環境を提供したい
このような経営者の「想い」が、情報収集のアンテナを海外にまで広げ、ブレークスルーを生み出す原動力になったのではないでしょうか。
経営をおこなう上で、他者の幸福を作りたいと思う気持ちが、経営者自身の行動変容に繋がり、事業成長に繋がるのだと、今回のインタビューを通じて気づくことができました。
インタビューにご協力いただいた萩原雅樹社長に、心より御礼申し上げます。
ありがとうございました。
【セミナー情報】
【ライブラリ】
- PREV
- HPR2より~新年のご挨拶
- NEXT
- 糸島市役所取材訪問について