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  1. 「上川町をショールームに」上川大雪酒造と上川町の取り組み

Regional Transformation地域創生

2023.08.08

「上川町をショールームに」上川大雪酒造と上川町の取り組み

上川大雪酒造は、2017年に北海道上川郡上川町に誕生した日本酒の酒造会社です。三重県の休眠中の酒蔵の酒造免許を長距離移転させるという前代未聞の偉業を成し遂げてスタートした酒蔵は、設立からわずか6年間で、上川町「緑丘蔵」のほか、十勝「碧雲蔵」、函館「五稜の蔵」と、北海道内に3つの酒蔵を誕生させました。
上川大雪酒造では、大雪山系の豊かな天然水と生産者の顔がわかる北海道産の酒造好適米を原料に、純米酒(純米、純米吟醸、純米大吟醸)にこだわり、小仕込みで丁寧に造られています。北海道弁でついつい飲んでしまうという意味の「飲まさる」酒を目指すその味わいは、環境と丁寧な酒造りからうまれているのではないでしょうか。
そして、品質の高さと美味しさから、札幌国税局新種品評会で金賞を受賞したほか、JAL国内線ファーストクラスにも採用された実績があります。
そんなユニークな取り組みによって、日本酒界に新たな風を吹き込んでいる上川大雪酒造さまの「日本酒を通じた地方創生」について、お話を伺いました。

 

酒造りではなく地方創生

上川町を訪問する前に、札幌オフィスで塚原敏夫社長にお話を伺ったのですが、もっとも印象的なフレーズが、「上川町をショールームに」というものでした。

 

上川町に緑丘蔵を建てたときには、町民はわが町に酒蔵ができたと喜び、酒蔵づくりに参加し、町に地酒がある賑わいが生まれたそうです。上川町内では、町内限定酒「神川」が地元のスーパーやコンビニで販売され、町民だけではなく、観光客も購入に訪れたことから町内での日本酒の売れ行きは驚異的だったとのことです。
また、塚原社長は地酒のことを「民芸品」に例えていらっしゃいました。地域に密着し、地域文化を取り入れた、その土地でしかつくることができないけれど、一般の人が買える価格のもの、それが「民芸品」という定義になるのですが、その土地のこだわった素材で造られる地酒はまさに民芸品であり、北海道の広大な土地の各地に日本酒を中心にした賑わいをつくりたい、上川大雪酒造の本業は酒造りではなく、地方創生だ、とおっしゃっていました。
ストーリーがある地酒に魅せられた人々が町を訪れ、土地の空気を感じ、町民と交流することで地域の町民が自身の地元に誇りを持つ、という好循環が生まれていく、そんなイメージを感じることができました。

まさしく、「地域全体がショールーム」。他の町にも参考にしていただける地方創生のモデルではないでしょうか。

(写真)左:塚原社長、中:小清水、右:辻口 HPR2代表取締役

 

価値創造の原点へ

塚原社長にお話を伺ったあとに上川町を訪問しました。上川町へのアクセスは、JR旭川駅から車で約1時間程度、札幌からはもちろん、旭川空港を利用すれば東京からも便利です。

まず、緑丘蔵を訪れたのですが、「行動展示」で全国的に有名になった旭山動物園をモデルに設計されたそうで、外観は酒蔵とはわからないお洒落な造りです。一般の方も外から窓越しに工場内の見学が可能になっており、現地で酒造り工程を見てもらいたいという思いが伝わってきます。
今回特別に杜氏の小岩隆一様にご案内いただいて工場内部を見学させていただいたのですが、仕込みはほぼ手作業でおこなわれています。たとえば、一般的には機械を使用する原料米を洗う作業も何度も分けて手作業でおこなっているとのことです。工場内には小さなタンクがたくさん並んでおり、タンク内でシュワシュワと発酵している様子は「日本酒が生き物である」、ということを実感できる瞬間です。上川町の水と空気を取り込みながら、美味しい地酒が丁寧に仕込まれている、まさしく価値創造の原点がそこにありました。

(写真)緑丘蔵外観

 

持続可能な地域創生モデルとは

上川町は、大雪山国立公園の北方に位置する自然豊かな町ですが、コロンビアスポーツジャパンやNewsPicksと地域包括連携協定を締結するなど、積極的に地方創生に取り組まれていることでも知られています。有名な観光地でいうと層雲峡温泉があり、全国的にも有名です。
そんな上川町役場を訪問させていただき、町と酒蔵の関わりについて、佐藤芳治町長と保健福祉課課長の谷脇良満様にお話を伺いました。佐藤町長のお話では、上川町に層雲峡温泉以外の観光資源をつくるためにつくられた「大雪(たいせつ)森のガーデン」にあの三國清三シェフを誘致したご縁で塚原社長と出会ったのがきっかけだったとのことで、酒蔵づくりには佐藤町長が先頭に立って取り組まれたとのこと。そんな町長に刺激を受けた職員と地元の有志の方で結成された「酒蔵支えTaI(さかぐらささえたい)」によって、休日のボランティアで酒蔵はつくられたそうです。
佐藤町長と谷脇様が楽しそうに当時のことをお話されていらっしゃる様子からも、この素敵な酒蔵は、上川大雪酒造と町、そして町民が一体になって作り上げたものであり、その結果、地元に愛され、根付いていることを実感することができました。持続可能な地域創生モデル、そんな印象を強く持ちました。

(写真)大雪森のガーデン

 


最初に「上川町をショールームに」という塚原社長の言葉を伺ったこともあり、わくわくしながら上川町を訪問させていただいたのですが、そこにあったのは、「酒」という魅力的な価値を丁寧に創造するプロセスと、町全体が当事者となるストーリーでした。

大雪山の麓の豊かな自然の中で、上川大雪酒造は地域に根差し、地元に愛される酒造りに取り組み、さらに、町内でチーズ工房やホテルの運営にも展開されています。酒造りを中心に、上川町内に賑わいの創出を実現されています。
そんな上川大雪酒造の取り組みは、地酒を中心にした地方創生のビジネスモデルであり、全国に伝播していくのではないでしょうか。
実際に上川大雪酒造の「6次産業化地方創生」の取り組みは、第15回日本マーケティング大賞地域賞の受賞という評価を得ており、今後もオホーツク地域や余市で新たな取り組みを予定されているとのことですので、目が離せません。
取材にご対応いただきました、上川大雪酒造と上川町の皆さまに厚く御礼申し上げます。また、最初から最後までアテンドしてくださいました、上川大雪酒造 常務取締役 山田藤多様、本当にありがとうございました。

 

<執筆者>

北海道地域創生プラットフォーム株式会社(HPR2)

小清水 晶子

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