「タイパ重視」の時代に、あえて「遠回り」させる育て方
動画は1.5倍速で観る。SNSで要約だけをチェックする。失敗したくないから、まずは検索で「最短の答え」を探す――。 学生や若い世代を中心に、現代は空前の「タイパ(タイムパフォーマンス)」ブームです。無駄を省き、短時間で効率よく成果を得るスマートさは、多忙な現代を生き抜くための大切なスキルといえます。
しかし、この「効率第一」の波が職場に押し寄せたとき、多くの経営者や管理職がひとつの大きなジレンマに直面します。 「指示した通りの最短ルートしか走ろうとしない」「自分で考えて失敗するのを極端に怖がる」……。
ある意識調査によると、若い世代がタイパを重視する最大の理由は「自分だけの自由な時間をつくるため」や「失敗をして時間を損したくないから」だといわれています。 決して、手抜きをしたいわけではありません。いつでも瞬時に答えが得られる環境で育った彼らにとっては、手探りで進んでやり直す(時間を損する)ことよりも、最短で正解にたどり着くことこそが合理的で誠実な行動だととらえているのかもしれません。
AI時代に見直したい「議事録づくり」の本当の価値
かつて、新卒社員が真っ先に任された仕事といえば、「会議の議事録をとる」作業でした。 しかし、AIが劇的に進化した今、こうした作業は一瞬で、しかも高い精度で完了します。 AIを使えばタイパは格段に上がりますが、果たしてそれだけで人は育つのでしょうか。 ここで立ち止まって考えたいのは、かつての議事録づくりの本質です。 あの泥くさい作業の価値は、単に要点をまとめて文字を残すことではなく、「誰がどんな意図で発言しているか」「場の空気や経営陣や幹部層の葛藤」といった、言葉の裏にある文脈(コンテキスト)をくみ取る訓練にありました。
効率化によって作業が消え去ったことで、私たちは同時に、人間ならではの感覚を養うための「遠回り」の機会まで手放しかけているのかもしれません。
「遠回り」の先にある「偶然の幸運(セレンディピティ)」
AIや検索ツールが得意とするのは、すでに存在する答えを最速でみつけだすことです。 しかし、ビジネスの現場で真に革新的なアイデアや信頼関係が生まれるのは、むしろ最短ルートから外れた場所にあるのではないでしょうか。
予定調和ではない体験、思わぬ失敗、他部署との何気ない雑談。そうした一見「無駄」にみえる遠回りの途中でこそ、ふとしたきっかけから思いがけないすばらしい発見や出会いをつかむ「セレンディピティ(偶然の幸運な発見)」が生まれるのです。
AI時代におけるこれからの若手社員の役割は、現場へ足を運び、AIには読み解けない違和感や気づきを持ち帰ることへと変化しているように思います。
会社が用意すべき「安全に失敗できる」挑戦の場
では、このAI時代に若い社員をどう育成すればよいのでしょうか。 大切なのは、成果に直結しない、安全に失敗できる時間と実験の場を用意することです。
たとえば、
- よい資料やプロの成果物を数多く見せ、「何がよいものか」を見極める審美眼(目利き)を養う
- AIが作った会議の要約に、自分なりに一番面白いと思った問いを1行添えてもらう
- 新商品の企画や社内イベントなど、小規模なプロジェクトをノーヒントで任せてみる
- 質問されたときにすぐ答えを出さず、「あなたならどうする?」と問い返してみる
作業を教え込むのではなく、めざすべき高いクオリティの基準を見せたうえで、そこに至る試行錯誤を温かく見守る。「失敗しても大丈夫、その手探りこそが成長の近道だ」という姿勢を示すことが、自律した社員を育てます。
タイパを追求して業務を効率化するのは、単なる省力化のためではありません。 浮いた時間を使って、本当に時間をかけるべき人間の成長や新しい挑戦に投資をするためです。 一見、非効率にみえる遠回りのなかにこそ、一生モノの成長と予期せぬイノベーションが眠っています。タイパ時代だからこそ、社員にあえて遠回りをさせられる心の余裕を持てる組織が、これからの未来に選ばれていくのではないでしょうか。
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