8tips社員が幸せな経営
政府が掲げる「同一労働同一賃金」が真に目指すこととは
これまで同じ企業に属する正社員と契約社員・アルバイトやパート社員などの間には待遇面で大きな隔たりがありました。この正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消するために、政府は「働き方改革」のテーマの一つとして「同一労働同一賃金」を掲げています。本稿では、同一労働同一賃金の真の狙いや、企業がとるべき対応について考察します。
労働人口を増やすためにも同一労働同一賃金は必要
近年、労働人口の減少を背景に、雇用の柔軟性がより一層求められています。それに伴い、短い時間であっても働きたい人や副業を持ちたい人など、労働者の形態も変化しつつあります。これに応じるため、より柔軟な雇用形態を提供することで、さらなる労働人口を確保しようというのが働き方改革の目的の一つです。
しかし、せっかく働き口が広がったにも関わらず、いわゆる正社員と非正規社員、また上述のような特殊な雇用形態を求める社員たちの間に、従来どおりの格差があっては、多くの人は新しい労働形態を求めなくなり、やはり正社員を望みかねません。しかし、それでは労働人口の増加にはつながりません。そのため、正社員との格差を埋めようというところに、同一労働同一賃金の目的があるのです。
厚生労働省による「同一労働同一賃金ガイドライン案」の内容とは
2016年12月、厚生労働省は「同一労働同一賃金のガイドライン案」を発表しました。その内容は、まだ漠然とした部分が多いですが、それでも同一労働同一賃金を知る上での大きな手がかりとなることは間違いありません。以下にその要旨を抜粋してみます。
・基本給格差の是正
仕事に対する能力を基準に基本給を支給する場合、それが正社員であっても、契約社員やアルバイトであっても同じ基本給を支払う必要があります。能力とは、たとえば職務経験が同じであることが挙げられます。
・成果給の是正
仕事に対する成果が同じであれば、給与も同じであることが求められます。正社員のAさんと、非正規社員のBさんが、営業職として同じ成果を出しているのであれば、そこに格差をつけることはできなくなります。
・賞与の是正
賞与についても同様で、会社への貢献度で支給しているのであれば、そこには正社員・非正規社員・パート・アルバイトなどの格差をつけることはできません。
同様に、①役職手当、②業務の危険度、③勤務形態、④皆勤手当、⑤時間外労働、⑥深夜・休日労働、⑦通勤・出張手当、⑧食事手当、⑨単身赴任手当、⑩地域手当、⑪各種福利厚生、などについても同一支給を定めています。
ただし、業務は企業によって内容に違いがあります。そのため、ガイドライン案には「問題となるケース」「問題とならないケース」も取り上げられており、状況によって判断が分かれるものもあるので、その点には注意が必要です。
「同一労働同一賃金ガイドライン案」の問題点
「ガイドライン案」はあくまでも案であるため、適宜修正が行われる可能性があります。しかし現状でも既に疑問点が浮かび上がってくることは否めません。たとえば基本給が同一支給であったとしても、それを遵守することが必ずしも賃金のアップとなるわけではありません。つまり、正社員の基本給を非正規社員のそれと同額に引き下げるだけで、基本給の同一支給は成り立ってしまいます。同様の課題はほかの項目にもあてはめられるでしょう。
そもそも、どの企業であれ、組織や業務は、複雑な要因がいくつも絡み合っているものです。それにも関わらず、具体性の少ない内容で同一労働同一賃金をうたったとしても、明確な成果を得ることは簡単ではないかもしれません。
ジョブ型への移行が制度攻略のカギに
同一労働同一賃金は、一見すると労働者に配慮したものに見えますが、それはあくまでも一つの側面に過ぎません。働き方における概念の変化を促す狙いも隠れているのです。
そもそも、同一労働同一賃金を含む「働き方改革」は本来、人口減少に対応しつつ、いかに国内生産力を高めるかをテーマとしています。厚生労働省による、平成30年版「労働経済の分析」では、G7内における日本の生産性が最下位であることを指摘していますが、同書の平成26年版では、日本の生産性の低さの原因に、人を中心に管理して、そこに業務を結びつける「メンバーシップ型」と呼ばれる日本独特の雇用システムがあることを挙げています。
人と業務を結びつけるメンバーシップ型とは、言い換えれば、能力とはかけ離れた業務であっても、長期間にわたって働きさえすれば、年功で賃金が増えてゆくという日本独特の雇用形態そのものです。従来の日本企業のならわしだったこの雇用形態は、社員の能力と関係ない非効率な業務と、それによる生産性の低下という結果を露呈しました。
働き方改革で目指す、柔軟性に富んだ雇用形態は、このメンバーシップ型の雇用形態を、欧米各国に見られるような、業務内容に人をあてはめる「ジョブ型」への雇用システムへとシフトすることを目的としています。「適材適所」を掲げるジョブ型雇用は、非効率な正社員ではなく、兼業や副業、短時間労働であっても能力や成果に見合うものとして同一労働同一賃金を提示しなければなりません。このジョブ型雇用形態へのシフトこそが、同一労働同一賃金のもう一つの目的なのです。
このように同一労働同一賃金という制度は複合的な目的を備えたものです。だからこそ、企業側としては労働者に対するなお一層の配慮とともに、将来における労働市場の変化への適応と、生産性の向上を狙い、ジョブ型雇用への移行も検討することが、同一労働同一賃金の課題を攻略するカギであるといえるのです。
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