8tipsリスクに備える経営
コロナ対策:中国企業の『危機対応策』事例
中国で新型コロナウイルスが本格的に警戒され、各種強制措置が実施されたのは 2020年1月23日からであり、この日から現在に至るまで新型コロナウイルスが産業経済に与えた損害は驚くべきものだ。
例えば、2019年の春節の初日、中国本土での映画興行収入は14億元(約210億円)であったが、2020年はわずか140万元(約21百万円)になったといわれる。千分の一である。さらに、春節期間、小売業は前年に比べ売上が2兆元(約300兆円)減少したというデータも出ている。
一部のエコノミストは、中国のGDPは2020年に約0.5%から1%低下すると予測している。つまり、中国の経済成長率は6%から5%のサイクルに低下する可能性が出ている。
そんな中、中国の馬克華菲(Mark Fairwhale)ブランドを展開するアパレル会社の「危機対応策」とその効果が話題になっている。
Mark Fairwhaleは全国に1600以上の店舗があり、年間売上は約35億元(約500億円)である。湖北省には60以上のフランチャイズ店があり、年間売上高は約1億5,000万元(約22億円)である。毎年春節前の9月から1月までの秋冬シーズンはアパレル業界のピークであり、Mark Fairwhaleの場合、秋冬シーズンの売上は年間の60%を占める。
1月23日に武漢の閉鎖が発表されるまで、Mark Fairwhaleの湖北省における業績は新型コロナウイルスの影響を受けておらず、ほとんどの店舗は通常どおり営業していた。しかし、1月24日に上海の直営店が入居していたショッピングモールで新型コロナウイルス感染者が出た関係で、店舗閉鎖を余儀なくされてから状況が一変し、旧正月の元旦にあたる1月25日から10日以内に、国内店舗の80%が閉鎖されてしまった。
そのため、売上が急激に落ち込み、Mark Fairwhaleは3,000人以上の従業員の給与、1,000店舗相当の家賃、月額5,000万元以上の固定費支払いに直面することになった。
この時、Mark FairwhaleのCEO Yang氏が資金繰りを確認したところ、最大3ヶ月間しか持たないことが判明した。つまり、5月までに状況が改善し、消費が完全に回復しなかった場合、企業としての存続が非常に困難な状況に陥ることを意味している。
そんな状況に直面したYang氏がとった行動は、「状況を常に研究することにより、経営方針を機動的にし、毎週もしくは毎月のビジネス目標を調整する」ことであった。
さっそく、2月に打ち出したのは下記のような6つの戦略であった。
① 断固たる意識と理念の発信
まず幹部社員の意識を統一し、「継続こそが勝ち」である理念を全社員に伝えることで、従業員のモチベーションアップを図った。
「天は自ら助くる者を助く」ということわざ等のスローガンを打ち出し、社員に会社とともに必ず困難を乗り越えることが確信できるメッセージを発信し、鼓舞した。
②根本的なコスト削減
コスト削減には「プロセスの簡素化」「余分な人件費の削減」「パートナーシップの構築」などが含まれる。実店舗は迅速に賃料の削減を申請、もしくは閉鎖を決める等、すべての「蛇口」を締めて、今回の新型コロナ対策期間での費用支出を厳密に管理することにした。また、在庫サイクルを短縮し、製品開発、計画、設計、生産のペースを元の4ヶ月ごとから12ヶ月に変更し、月ごと及び週ごとに製品の生産計画に基づく発注に変えることで、サプライチェーンへの変革もいち早く実施した。
③売上の最大化
オンライン、および、新規小売ビジネスを積極的に開発し、市場拡大と拡大する機会を探した。WeChat(中国で最も使われているSNS)、オンラインライブストリーミング、ショートビデオビジネス、コンテンツマーケティング、カスタマエクスペリエンスシーンのリエンジニアリングなど、新しいマーケティング手法を広く採用して、オンライン上での顧客体験感を向上させた。また、予算内でMark Fairwhale TikTok、KuaishouおよびB Station等でのオンライン直販もスタート。かつては、オンラインでのプロモーションは支出販促費に比べて利益率が低かったため、フランチャイジー(Mark Fairwhaleは直営店以外にFC方式もある)によって拒否されていたが、実店舗での営業活動ができない環境になってから、フランチャイジーは顧客データの共有を受け入れざるを得ず、オンラインおよびオフラインのデータ接続が実現した。
実店舗での販売は個別の消費者のデータしか入手できないが、デジタルデータを共有することにより、販売担当者は潜在顧客と見込み顧客のデータを入手し、消費行動パターンを分析することができるので、いかなる販売シーンでもビッグデータを活用した最適化を実現できることとなった。結果として、デジタル変換(トランスフォーメーション)が推進されたことになる。
④キャッシュフロー(資金繰り)の重視
資金の回収及び支払周期をコントロールし、売掛金を減らす対策を取った。政府補助金、政府財政政策支援の受入、税金負担の軽減、在庫削減などあらゆる手法で少なくとも半年から1年は戦略的な資金確保ができるように努めた。
⑤革新的な出勤体制
いち早くテレワークでの勤務体制を構築し、従業員ができるだけ早く就労状態に戻るように工夫した。また、オフィスでの勤務についてはオフィスの徹底的な消毒を実施する以外に、従業員の自発的な選択を尊重し、必要な場合を除いては自宅勤務を奨励することで、従業員の感染への不安感を減少させた。
⑥完全なマーケティング戦略
CEOのYang氏は、「すべての人のマーケティングには、スローガンだけでなく、従業員の創造性、販売への情熱を本当に刺激するメカニズムとシステムの保証が必要である」と強調した。 具体的な方策は以下のとおりである。
2019年末のデータによると、Mark Fairwhaleの3,000人以上の従業員のうち、1,500人がWechatオンラインショッピングモールで登録(従業員がディストリビューターとして販売可能)していたものの、積極的に行動した人は少なかった(ディストリビューターへの販売手数料は2019年の販売開始当初から10%であった)。この新型コロナウイルスという危機的状況を受けて、実店舗の店員全員に対し、各自が管理していたオフライン上の顧客をオンラインモールに流入させるようにした。もちろん、店員に対してはマーケティング研修を実施し、かつ、奨励スキームを実施した。結果、オンラインショッピングモールでの売上は右肩上がりの成長を示すようになったのである。
日本と中国は国勢もビジネス環境も異なるが、直面している課題は似ており、新型コロナウイルスという予期せぬ事態において、すべてのビジネスは独自の戦略と解決案を探す必要がある。政府の政策でも、企業それぞれの危機対応策でも、逆境の中で生き残るためには、従業員、顧客、パートナーといったステークホルダーすべてに配慮した戦略が重要であり、結果として継続的な信頼と長期に渡るリレーションシップを得ることになるのだろう。
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