露店経済復活の背景

露店とは、いわゆる日本の「屋台」のことです。以前は街中に溢れていた露店も、中国でも都市化が進むにつれて、街の景観を損ねることや、衛生面の問題などの理由で取り締まりの対象となり、当局に強制撤去されていました。
ところが一転、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に経済を麻痺させるなか、中国では、大量に増加した失業者対策として、今年5月の全国人民大会で「露店経済」の導入が発表されました。中央政府は、「露店経済は雇用や国民の収入・生活を安定させ、中国経済を回復させる代表的な手段である。」とまで言及しています。
その結果、わずか数日の間に多くの露店が出現し、新たな雇用や利益が生み出されています。

露店経済の実態 ～ 個人や企業の動き

個人による出店事例

軽食だけでなく、洋服、アクセサリー、中古のブランド品なども店頭に並んでいます。また、「露店経済」の活力を最大限に発揮できるように、各地方行政管理部門は参加基準などの規定を発表しています。たとえば、上海における出店は、市場監督管理局に対して営業時間、営業場所等を申請、その後、都市管理局、食品安全部門、消防局などによる審査を経て、営業許可を得ることができる、などです。

企業による出店サポート事例

■インターネット業界
アリババ・グループ・ホールディングス（Alibaba）
・露店経営者に対して販売品目とその供給業者の情報を提供
・総額700億人民元（約１兆円）の仕入れ枠を提供

■家電製品小売業界
蘇寧グループ「夜市パートナー」計画
・1,000億人民元（約1.5兆円）の商品在庫を確保し、全国の露店へ当日配送体制を整備
・全国10,000ヶ所を超える冷凍倉庫の利用に対して、3km以内で送料無料のサービスを提供
・露店経営者に経営などに関する無料のオンライン教育・指導を実施
・全国の露店経営者に総額20億元（約300億円）の起業資金を提供
■自動車業界
五菱汽車
・移動販売車(※)という特別車両を開発し、露店活動をサポート
※営業車、アイスクリーム販売専用車、ダイニングカー、冷蔵車など12類の車種を含む

露店経済の影響

もちろん、「露店経済」には、以下のような直接的な効果が考えられます。
・参入・撤退が比較的に容易であり、スピーディに経済を回す。
・多様化する消費者ニーズにいち早く対応することによって、高収入を得ることも可能で、副業として出店する人も増加。
・就職できない新卒者にとって商売の経験を積むチャンスになり、失業者にとっては再就職のチャンスにもなる。

また、企業業績を牽引する、といった効果もみられます。たとえば、自動車業界の五菱汽車を含む「露店経済」に参画するほとんどのメーカーの株価が急上昇しているなど、株式市場へも波及しています。今後より多くの企業が業績の牽引役の一つとして「露店経済」への参入が期待されています。

さらに、「露店経済」ビジネス形態を規範化する制度が相次ぎ導入されています。たとえば、北京市政府は、もともと、首都のイメージを損なうとして「露店経済」の規制強化をしてきたことから、今後は「一定のルールに基づいた規範的な露店経済モデル」が求められることになると思われます。また、各地方政府としても、以下のような制度構築を検討しているようです。
・衛生・汚染管理を強化、防疫管理制度の構築
・サービスの品質管理ガイドラインの構築と消費者の権利保証
・経営者の行動を社会個人信用システムで管理

コロナ禍に立ち向かう、中国の内需拡大策「露店経済」。今後の推移に期待していただければと思います。