みらい経営者 ONLINE

経営課題の発見・解決に役立つ情報サイト

みらい経営者 ONLINE

  1. リスクに備える経営
  2. 「信託型ストックオプション」で何が問題とされているのか?

8tipsリスクに備える経営

2023.06.09
リスクに備える経営

「信託型ストックオプション」で何が問題とされているのか?

「信託型ストックオプション」で何が問題とされているのか?…

前回の「信託型ストックオプション、いま対応すべきこと」でもお伝えいたしましたが、今回は、「信託型ストックオプション」で何が問題とされているのか?についてもう少し専門的な観点からご説明します。

 

5/30に国税庁は「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を公表し、「信託型ストックオプション(SO)」を導入する企業に対して多額の納税が発生する可能性があると注意喚起しました。

信託型SOの導入企業は、役員や従業員に対して株式の譲渡時に20%で課税されると考えていましたが、今回公表されたQ&Aでは権利行使時に給与所得として最大55%で課税するとの見解がだされ、導入企業はその対応に追われることになっています。

近年、特にスタートアップにおいてはさまざまな種類の株式やSO(新株予約権)によるインセンティブが設計されていますが、今回の信託型SOに関する国税庁からの公表内容は、従来の企業側の認識と大きく異なる内容で、今後の実務に与える影響が極めて大きいため、今回は信託型SOの仕組みや問題点について解説します。

 

信託型SOは「有償SO(いわゆる税制”非適格”SO)」の一種になります。

従来型の有償SOは業績への貢献度が不明な段階、例えば役職員の採用のタイミングごとにSOを渡す必要があり、株価が上昇する場面では後に入社した役職員のほうが条件が不利になることもありましたが、信託を利用することで早い段階でSOの条件を確定させ条件を一律とすることで、入社時期にかかわらず柔軟に割り当てることができるなどのメリットがあり、特にスタートアップにおいて導入する企業が増えてきていました。


(国税庁HP「ストックオプションに関する課税(Q&A)」より)

 

信託型SOのイメージは上図の通りです。

①発行会社(オーナー)が資金を拠出して信託を組成
②信託の受託者が発行会社のSOを時価で購入
③信託の受託者は発行会社が指定した役職員(受益者)にSOを付与
④役職員がSOを行使して株式を取得
⑤役職員は取得した株式を市場等で譲渡

 

国税庁のQ&Aでは、勤務先からの現物支給は給与所得となるので、④で役職員がSOを行使して株式を取得した段階で給与課税の対象となり、企業側で源泉所得税の納付が必要となると説明しています。

しかし、導入企業としては、役職員は信託が有償で取得したSOを信託から付与されていることなど信託税制の考え方から給与所得には該当しないと考えており、国税庁と導入企業とで課税の考え方に大きな隔たりが生じています。

 

信託型SOは2014年に商品化されてから約800社で導入され、そのうち上場企業も約100社あるということで、税務上の取り扱いは導入企業において事前に慎重に検討していたはずですが(国税当局に対しても事前に確認しているはずですが、報道によると企業側からの事前照会の状況に関して「聞かれていない、聞かれてもそう答えたことはない」との回答があったとのこと)、国税当局から想定外の見解が出されたことで企業側は相当困惑していると思われます。

 

今回の国税側の指摘では、導入企業において既に信託型SOの権利行使がされていると、過去に遡って権利行使時に給与課税がされ、企業は源泉所得税を早急に納付したうえで役職員に負担を求める必要があります。

役職員にとっては想定外の負担で納税資金(源泉所得税のほか住民税も負担する必要も)を用意できないことも考えられ、企業側が源泉所得税や住民税を負担するケースも考えられます。既に10年近く運用されてきているスキームのため会計上過去の決算に与える影響なども検討する必要がありますが、国税当局と企業側の見解に大きな差があることから今後各地で税務訴訟が提起される可能性も考えられます。

 

なお、信託を利用した報酬制度として「株式交付信託」という制度もありますが、この制度は従業員の福利厚生の増進や企業価値向上に係るインセンティブの付与を目的としています。信託型SOはSO(新株予約権)を付与しますが「株式交付信託」は自社株式を交付するもので、権利確定時に給与所得や退職所得として課税されることになりますが、今回のQ&Aの影響はありません。

 

今回は国税庁から公表されたQ&Aをきっかけとして信託型SOの問題点を中心に解説しましたが、国税庁からは同時に税制適格SOが活用しやすくなるような方向性も示されております。

 

【関連記事】

信託型ストックオプション、いま対応すべきこと

PREV
信託型ストックオプション、いま対応すべきこと
NEXT
信託型ストックオプションの適時開示状況

ページトップへ