8tipsリスクに備える経営
法的整理手続とも私的整理手続とも異なる「第三の手続」について
近年、コロナ禍を背景として、お客さまから取引先の再建、再生が必要な企業の買収(M&A)について、ご相談を受ける機会が増えてきました。日本経済新聞(2025年1月7日朝刊)に「多数決で私的整理 債権者4分の3同意で可能に」という記事が掲載されましたが、この記事でも述べられている経済産業省産業構造審議会がまとめた報告書(*1)に記載されている「法的整理手続とも私的整理手続とも異なる第三の手続」は、事業再生に新たな可能性を与える施策であり、これから、たとえば重要な取引先の立て直しや再生型M&Aに取り組む企業経営者にとっても有益な情報であるため、簡単にご紹介させていただきます。
再生計画の同意までに時間を要したり、断念したりするケースが増加しています
みらいコンサルティンググループでは、以前から事業再生支援をおこなっています。通常、事業再生計画の実行にあたっては、債権者(主に金融機関)全員の同意を得ることが大事なポイントになるのですが、近年、金融機関の融資先に対する支援姿勢が異なる、たとえば、債権放棄を容認して、早期の事業再生を目指す金融機関と、それには反して、債権放棄を容認せず、長期での弁済を求める金融機関に支援方針が分かれるため、再生計画の全行同意までに時間を要したり、場合によっては断念したりするケースが増えています。人間の病気と同じように「早期着手が事業再生の成功確度を高める」というのがセオリーなのですが、残念ながらそれができていないと感じることが現実に多々あります。経済産業省が「多数決で私的整理が可能な法案」を国会に提出する背景として、全員の同意というハードルを下げて、事業再生の成功確度を高めたいという意向が強く働いていると考えます。
新しい制度は、公平中立的な第三者機関と裁判所が関与して、早期の事業再生を目指す仕組みです
この制度は、経済的に窮境に陥るおそれのある段階の事業者について、公平中立的な第三者機関(指定法人)と裁判所が関与して手続の透明性・公正性の両方を担保しつつ、金融債務の整理を迅速におこなうことで、早期での事業再生を円滑に実施することができる制度です。そして、この制度は、報告書案(*1)において、法的整理手続とも私的整理手続とも異なる、「第三の手続」として新たに位置付けることが適当だとされています。
スキーム図:報告書(*1)より引用
この制度は、債権者が多く全員の同意を得られない場合での活用が想定されています
対象事業者は、倒産前の早期かつ迅速な事業再生を促進する観点から、民事再生法上の「経済的に窮境にある」状態の前段階の「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」となっていますが、全債権者の同意が得にくい事業者の利用が想定されるため、たとえば、当社がこれまで関与したケースでは、全国に複数の拠点を有していて、それぞれの地域で金融機関から融資を受けている場合、もしくは海外現地法人やグループ会社を複数有していて、複数の金融機関から融資を受けている場合など、金融債権者の数が相対的に多く(たとえば10行以上)金融債権者全員の意向を満たす再生計画が立案できない場合が想定されます。
この新しい制度の運用にあたっては、中小企業活性化協議会を中心とした既存の私的整理との住み分け、専門家の選定など多くの課題があると思われます。しかし、多数決で私的整理がおこなえるということは、「私的整理には時間がかかる」という冒頭に述べた課題に対して解決策を提示するものであり、有望な手法になり得ると考えます。
外部環境の変化が激しい昨今、ビジネスモデルの変化のなかで、必要なサプライチェーンを維持するためにはそこに関与する取引先の経営は非常に重要です。法案の可決が前提となりますが、法的整理手続とも私的整理手続とも異なる「第三の再生手続」について、ご記憶にとどめてをいただければ幸いです。なお、当社は、これまで事業再生コンサルティングや官民再生ファンドの運営を通じて、再生実績・ノウハウを積み重ねてまいりましたので、何かお困りごとなどがございましたらどうぞお気軽に相談ください。
*1 経済産業省『産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 事業再構築小委員会報告書(案)-早期での事業再生の円滑化に向けて-』2024年12月
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/business_restructuring/005.html
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