視界不良のなかでの「計画づくり」のポイント
年度末を迎え、多くの企業が新年度の予算策定や事業計画の立案に追われる時期となりました。しかし、多くの方が「計画を立てるのがむずかしい」と感じていらっしゃるのではないでしょうか。
世界に目を向ければ、各地で続く紛争や緊張感の高まる国際情勢により、かつての「秩序ある国際関係」は影を潜めています。その影響は私たちの足元にもおよび、エネルギー価格の急騰、原材料の供給不安、そして世界的な経済危機の足音など、経営の前提を揺るがすニュースが途絶えません。
今の状況を例えるなら、「激しい地震で地面が揺れている最中に、必死に地図を描いている」ようなものです。
これまでの延長線上で数字を積み上げるだけの計画は、今の時代、あまりに脆いと言わざるを得ません。これからの計画づくりにおいてもっとも大切なのは、「固定的な目標」を立てることではなく、「変化への適応力」を仕組みとして組み込むことです。
今回は、不測の事態に翻弄されすぎないため、計画づくりのポイントを5つご紹介します。
1. 「3つのシナリオ」で複数の未来に備える
「来期の売上は〇億円、利益は〇%増をめざす」という通常ならあたりまえの計画は、前提となる為替や原材料価格が数%動いただけで機能不全に陥ります。まずは、「こうなるはずだ」という思い込みを捨て、最低でも3つのシナリオを用意しましょう。
• 楽観(Best): 市場が回復し、追い風が吹いた場合の最高シナリオ
• 標準(Base): 現在の状況が継続すると仮定した、現実的なシナリオ
• 悲観(Worst): さらなる政情不安やコスト高騰が直撃した、最悪のシナリオ
ここで重要なのは、単に予測を分けるだけでなく、「トリガー(発動条件)」をセットで決めておくことです。
「為替が1ドル〇円を超えたら、この投資プロジェクトは一旦中断する」「受注が前年比〇%を下回ったら、即座に固定費削減フェーズに移行する」といった具体的な行動基準を事前に検討しておきます。いざ危機が訪れた際、パニックにならずに「決めておいた通り」に動けるかどうかが、会社の運命をわけることになります。
2. 計画を「短サイクル」で回し、柔軟に書き換える
かつての計画は、一度決めたら1年間その通りに進めるのが普通でした。しかし、これほど変化が激しいなかでは、1年先でさえ、誰にも予測不能です。
そこで取り入れたいのが、計画を状況にあわせてアップデートしつづける「ローリング・フォーキャスト(転がし予測)」という考え方です。
1年間の計画を固定せず、四半期ごと、あるいは毎月、その後の見通しを最新情報に基づいて更新し続けます。いわば、紙の地図ではなく、常に最新の交通情報を反映する「カーナビ」のように計画を運用するのです。
あわせて検討したいのが、コスト構造の柔軟性です。外部委託(アウトソーシング)の活用や、所有ではなくサブスクリプション型のサービスを利用するなど、売上の増減にあわせてコストを機動的に調整できる「固定費の変動費化」を進めておくことが、不況時のひとつの防御策となります。
3. 「利益」よりも「キャッシュ」を最優先する
不透明な時代において、経営者がもっとも注視すべきは損益計算書上の「利益」ではなく、通帳のなかの「キャッシュ(現預金)」です。
どれほど帳簿上で利益が出ていても、手元の現金が尽きれば会社は倒産します。とくに資源高や物流の混乱が懸念される今、資金繰りの計画は例年以上に慎重さが求められます。
• 現預金比率の引き上げ: 攻めの投資計画を一時的に凍結してでも、手元の流動性を厚く確保する勇気を持ってください。
• 回収サイクルの改善: 売掛金の回収を1日でも早め、過剰な在庫を抱えないための「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」の短縮を、数値目標として組み込みます。
「利益は意見、キャッシュは現実」という言葉があります。不測の事態において、最後に会社を守ってくれるのは手元にある現金です。なお、在庫を抱えないと上述しましたが、モノの供給が不安定ななか、生産や販売をつづけるために必要な在庫は何か、手元現金の状況を見ながら検討しておくことも重要です。
4. サプライチェーンと顧客の「分散」を保険とする
特定の国、特定の企業に仕入れや販売を依存している構造は、平時には効率的ですが、有事には致命的なリスクとなります。
たとえば、特定の地域からの調達が止まった瞬間にすべてのラインが止まってしまう。そんな事態を避けるために、「調達ルートの多角化」を計画に盛り込みましょう。代替案を確保しておくためには、多少のコストアップや管理の手間がかかるかもしれません。しかし、それはコストではなく、事業を継続するための「保険料」だと捉えるべきです。同時に、顧客ポートフォリオの分散も欠かせません。主要な取引先の経営状況が急変しないか、例年以上にモニタリングを強化する体制を整えるなど、「与信管理」の徹底も来期の重要施策として位置づける必要があります。
5. 心理的安全性と情報の透明性が「復元力」を生む
どんなに精緻な計画を立てても、実際に動くのは「人」です。社会情勢が不安定になると、従業員の間に不安が広がり、モチベーションの低下や誤った噂による混乱が生じやすくなります。
こうした時こそ、経営者からの「ビジョンの発信」が重要です。「なぜ、私たちはこの事業をつづけているのか」という軸を共有し、危機を乗り越えるための連帯感を高めるコミュニケーションを計画に組み込みます。
また、悪いニュースほど早く、正確に共有する「情報の透明性」も重要です。経営状況をオープンにすることで、現場の社員一人ひとりが「自分たちが今、何をすべきか」を自律的に判断できるようになります。この現場の判断力こそが、組織の「レジリエンス(復元力)」を高める最大の鍵となります。
完璧よりも「修正の速さ」を
不確実で先が見えない状況で、最初から「完璧な正解」を導き出せる人はいません。計画づくりにおいて本当にめざすべきは、完璧な文書を完成させることではなく、「間違いに気づいたとき、違和感を感じたときに、いかに早く、柔軟に修正できるか」という仕組みを組織にインストールすることです。
「地面が揺れているなら、揺れにあわせてステップを踏めばいい」
そんなしなやかな強さを持った計画こそが、視界不良の時代を乗り切るための最強の武器になるのではないでしょうか。
私たちみらいコンサルティンググループでは、こうした不透明な環境下での予算策定支援や、リスクに強い経営体制の構築を全力でサポートしています。新年度の計画に不安を感じていらっしゃる方は、ぜひ一度ご相談ください。私たちといっしょに、次の一手を考えていきましょう。
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