“スポットライトの向き”が成長につながる
人は何をきっかけに意識が変わり、大きく成長するのでしょうか。これは、会社組織を運営する経営者やマネジメント層にとって、誰もが頭を悩ませているテーマではないでしょうか。
私は、多くの経営者やビジネスパーソンと関わるなかで、「成長の転機は、心のなかにあるスポットライトの向きが変わる瞬間に訪れる」と感じています。スポットライトが自分に向いているのか、それとも相手に向いているのか。この違いが、成長の質を大きく変えていきます。
「自分のため」に走るテイカーの時期
若手の頃は、「できるようになりたい」「成果をだしたい」「認められたい」という純粋な気持ちが成長の原動力になります。私はこの状態を、あえて「Taker(テイカー=受け取る人)」の成長フェーズととらえています。
ここでいうテイカーとは、自分の知識や経験、あるいは周囲からの評価を得ようとする、いわば「自分中心」の成長段階のことです。このフェーズでは知識やスキルが急速に伸びるため、決して否定されるものではありません。むしろ、ビジネスパーソンとして自立するための必要不可欠な基礎体力をつける時期といえます。
しかし、ある程度仕事ができるようになると、知識は増えているはずなのに、なぜか成長の実感が薄れていく「踊り場」を迎えることがあります。その理由はシンプルです。スポットライトが自分だけに向いたままだと、学習の対象も「自分がどう成果をだすか」という狭い範囲に留まりつづけてしまうからです。
相手に光をあてるギバーへの転換
そこで訪れる次の成長フェーズが、「Giver(ギバー=与える人)」へのシフトです。心のなかのスポットライトが、自分から「相手」へと移ります。
たとえば営業職であれば、「どう売るか」ではなく、「この社長は今何に悩み、どんな未来を実現したいのだろう」と相手の視点に立って考えるようになります。 管理職であれば、「どう指示するか」ではなく、「この部下は今どこでつまずき、何に不安を感じているのだろう」と相手の心の動きに目を向けるようになります。
心理学や認知科学の世界でも、相手の立場に立って考えることで、脳はより複雑で高度な情報処理を始めることが知られています。相手の状況や感情、価値観、そして期待を理解しようとするなかで、言葉の裏にある機微を感じ取ったり、共感したり、深い信頼関係を築いたりする力が磨かれていきます。さらには、人を育てる力やマネジメント力など、ビジネスの本質的な能力が引きだされていくのです。それは、知識を積み重ねる成長から、人間としての“器”を広げる成長へと、質がガラリと変わる瞬間です。
成長を加速させる「耳の痛いフィードバック」
ただし、この転換は自然には起こりません。私たちは自分一人では、自分のスポットライトがどこを向いているか気づきにくいからです。
だからこそ必要なのが、「あなたの行動は相手にどう映ったのか」「相手は何を感じたのか」という、相手の意識に目を向けさせる周囲からのフィードバックです。こうした丁寧な対話を通じて客観的な自己認識が高まり、初めてスポットライトは相手へと向き始めます。
しかし、こうしたフィードバックは、受け手にとって「耳の痛い内容」になることが多いものです。昨今はハラスメントやコンプライアンスへの配慮から、職場での率直なフィードバックがむずかしくなっている現実もあります。 また、若手社員の側も厳しいフィードバックを受け止める経験が少なく、その耐性が弱くなっている側面があるかもしれません。
それでも、本来フィードバックとは相手の成長を支援するためのものです。避けるのではなく、お互いの成長を願う前向きな対話として設計し直すことが、これからの組織には求められているのではないでしょうか。
持続的な成長を支える組織へ
成長を追い求めるテイカーをやめ、スポットライトを自分から相手へ移し、ギバーになることで、結果として自分自身がもっとも大きく成長する。これは一見逆説的ですが、多くの優れたビジネスパーソンに共通する成長のプロセスだと感じています。
だからこそ、経営者や管理職の育成責任は、知識やスキルを教えることだけではありません。メンバー一人ひとりが今どの成長フェーズにいるのかを見極め、適切なフィードバックを通じて、スポットライトを相手へ向けるきっかけをつくること。その転換を支援できる組織こそが、人も企業も持続的に成長していくのだと思います。
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