2026年、会社の「値打ち」が変わる? ~「企業価値担保権」施行開始 ~
2026年5月、「企業価値担保権」という、少し耳慣れない新しい融資の制度が施行されます。
https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html
金融庁のサイトによると、「企業価値担保権は、不動産担保や経営者保証に過度に依存しない、事業の将来性に基づく融資を後押しする制度」とありますが、簡単にいうと、それは、「目に見えるモノ」ではなく、「目に見えない努力や未来への期待」を信じよう、というこれまでとは大きく変化した考え方のように感じます。
この変化の本質をひもといていくと、私たちがこれからの時代に大切にすべき「働くことの意味」が見えてきます。
「土地」から「物語」へ
これまで、企業が銀行から大きなお金を借りようとする際、重視されてきたのは「何を持っているか」でした。
たとえば、土地や建物、工場といった不動産です。これらは「目に見える資産」であり、万が一ビジネスが失敗しても売却してお金に換えられるため、銀行にとっては安心材料でした。
しかし、今の時代はどうでしょうか。
IT企業やサービス業、スタートアップ企業の多くは、広大な土地も立派な自社ビルも持っていません。彼らが持っているのは、独自の技術、優秀なスタッフ、顧客との信頼関係、そして「これから世の中をこう変えたい」という情熱です。
これまでのルールでは、こうした「目に見えない価値(無形資産)」は、お金を借りる際の信用として十分に評価されにくい側面がありました。
新しい制度では、事業そのものが生み出す「将来の価値」全体を担保として、お金を借りられるようになる、ということになります。
過去に積み上げたレンガの数(不動産)を数えるのではなく、これからどんな建物を建てようとしているのか、その設計図とチームの力を評価する。いわば、企業の「物語」そのものに投資するような仕組みへと変わるのです。
「続く」ことへの信頼
では、形のない「将来の価値」をどうやって測るのでしょうか。
未来のことは誰にもわかりません。しかし、予測することはできます。そこで重要になるのが、「そのビジネスは持続可能か?」という視点です。
一時の流行りで売り上げが伸びても、翌年には消えてしまうようなビジネスモデルでは、将来の価値があるとは言えません。
環境に配慮しているか、社会の課題を解決しているか、そして何より、関わる人々が幸せか。
これらが整って初めて、その企業は「長く愛され、稼ぎ続けることができる」と判断されます。
つまり、銀行や投資家が見ようとしているのは、単なる数字の予測グラフではなくなるはずです。「この会社なら、どんな嵐が来ても乗り越えていけるだろう」という、ビジネスモデルの足腰の強さなのです。
「人」こそが最大の財産
そして、その持続可能なビジネスモデルを作り、動かしているのは誰でしょうか。
AIでもロボットでもありません。そこにいる「人」です。
将来の事業価値を高く評価される企業とは、すなわち「人づくり」が進んでいる企業になるのではないでしょうか。
社員がただの労働力として消費されるのではなく、生き生きと働き、スキルを磨き、新しいアイデアを生み出しているか。
新しい制度の導入は、企業の評価基準を「工場などの設備」から「そこで働く人々の可能性」へとシフトさせるきっかけになります。
これは、近年よく耳にする「人的資本経営」という考え方そのものです。人をコストではなく、価値を生み出す源泉(資本)として捉える。新しい融資のルールは、この考え方を後押しする強力なエンジンになるはずです。
「外側」から「内側」へ
こうして見ていくと、この制度改正が単なる金融の話ではないことがわかります。
これまでは、会社の「外側」にある持ち物(資産)が評価されてきました。しかしこれからは、会社の「内側」にある想いや文化が問われるようになります。
ここで繋がってくるのが「パーパス経営」です。
「私たち(企業)は何のために存在するのか」という社会的な存在意義(パーパス)。
確固たるパーパスがあり、それに共感した優秀な人材が集まり、社会に貢献するビジネスをおこなう。だからこそ、将来にわたって収益が上がり、企業価値が高まる。
この「内側」の充実度が、これからの企業の通信簿になる。そんな気がします。
外見や持ち物で人を判断するのではなく、その人の性格や志、そして周りの人への接し方を見て信頼する。私たち人間同士の付き合いでは当たり前のことが、ようやく企業と金融の関係でも始まろうとしています。
「企業価値担保権」の導入は、企業に対して「あなたたちの本当の価値はどこにありますか?」と問いかけるものです。
土地を持っている会社が強い会社、ではありません。
「未来を創る力」を持っている会社こそが、応援される会社になる。
日本中の企業が改めて自分たちの足元を見つめ直し、「人」と「想い」を大切にする経営へと舵を切るきっかけになるかもしれません。みらいコンサルティンググループはこれからもそのような企業を全力で応援してまいります。
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